パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

菅総理誕生(2020.09.14作成)

914日午後6時からの記者会見。

 

   行政の縦割りをなくす

   既得権益の打破

   悪しき前例打破

の三つを掲げ、改革意欲があって、仕事ができる人を組閣にあたっては登用したい、とのこと。

デジタル庁創設では、まさに行政の縄張り意識を超えて、日本政府をIT時代にふさわしいものにする意欲が伝わってきた。

 

自民党総裁選前は、「安倍政権の継承」を強調していたが、勝利後は結構挑戦的な発言である。選挙戦で消費税引き上げの必要性を明言して、翌日「今後10年間は上げない」と軌道修正したが、晴れて総裁に就任した今、必ずしも安倍内閣の継承というわけでもなさそうだ。

森かけ、桜を見る会については、改めるべきは改める、とも。首相の女房役である官房長官として、安倍さんの防波堤であり続けたが、菅さん個人としては、違う思いもあったのだろうと想像する。

 

実行力がある方であることは頼もしい。縦割り、前例踏襲型の役人に対しては、人事で強権を使えるが、自民党内の守旧派とはどう対峙していくのだろう。小泉首相は、国民の間での自らの人気(当初は田中真紀子人気も追い風だった)を抵抗勢力退治に使った。

 

菅さんには、小泉さんのあの鮮やかさはない。外交でも小泉さんは華やかだった。ブッシュジュニア大統領のテキサスの私邸に招かれ、ピョンヤンに行き、金正日に会って拉致被害者のうち5人を取り戻してきたのだ。

 

菅さんは記者会見で、北海道新聞の記者の北方領土に対する質問に答えて、「プーチン大統領は柔道が好きで、来日中は山下選手に全行程同行してもらった」と嬉々として紹介していたが、危なっかしい。そんなもんで、あのプーチンが島を返すか!反対派を平気で毒殺する人物である。

 

苦労人菅のイメージ戦略が気に入らないのか、田中角栄は文字通り貧農出身の中卒なのに対し、菅さんの実家は結構成功したイチゴ農家だ、姉二入は北海道教育大学に進み、教員をしていた、高卒で上京してきたのは菅さんのわがままだ等々、「それほどたたき上げではない」と微妙な表現で、イメージを下げようとする評論家もいる。

 

角栄氏は1918年生まれ、菅さんは1948年生まれ。30年の差は大きい。角栄氏が自ら土建業に乗り出す一方、菅さんはサラリーマン。が、父親は豪雪地帯の農家の換金作物としてのイチゴに目を付け、冬の出稼ぎ対策にしたという点は注目したい。与えられた条件は悪いが、その中で知恵を出し、工夫をするという父親の姿勢を見てきたと期待しよう。自助の人なのだ。

 

官房長官の記者会見での対応はどうしても好きになれなかったが、日本人の一人としてこの総理にコロナ対応と経済再建を託さざるを得ないのだ。頑張って頂きたい。     (了)