パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

ジャニーズ事務所---悪い奴は鬼籍、質問する記者は共犯者だから記者会見は怖くない

9月7日のジャニーズ事務所の記者会見には、忖度してジャニー喜多川の悪行に触れてこなかった大きなメディアだけに限らず、フリーのジャーナリストや外国人記者も出席していた。

 

日本政府の記者会見では、官邸記者クラブや各省庁所属のクラブが仕切る。記者クラブの幹事社が政府と協力してお膳立てをする。かつては外国人記者や日本人でもフリージャーナリストは、役所の記者会見には参加できなかった。

 

鈴木エイトさん登場

ジャニーズ事務所の記者会見では、山上徹也による安倍元総理暗殺の前から、ずっと統一教会を追い続けて来た鈴木エイト氏も質問していた。地道に調査報道を重ねるフリージャーナリストがいるのだ。

 

そういえば、ビッグモーターの不祥事で、加藤久美子さんという自動車ジャーナリストもテレビで見かけることが多くなった。大手メディアに勤務する、地位が保証された記者と異なり、取材費もまずは自分で捻出しなければならないし、相手から信頼を得ないと取材もさせてもらえない。努力されてきたのだろう。

 

望月以塑子記者の声を初めて聞いて

安倍総理官房長官だった菅さんに徹底的に嫌われていた東京新聞の望月以塑子記者の声を初めてこの記者会見中継で聞いた。甲高い声で猛烈なスピードでまくしたてていた。

東山紀之新社長の若いころのセクハラ、パワハラ疑惑についての質問は、耳を覆いたくなるような内容だった。

 

確か、記者会見の数日前に行われた性加害被害者の当事者の会の記者会見では、望月記者は「これから対話により問題解決、補償にもっていきたい、と言いながら国内での提訴や海外での訴訟をちらつかせるのはいかがなものか?」という趣旨の質問をしており、結構被害者に対しても、耳の痛い質問をするのだな、と感心していた。もっとも、被害者をけしかけるような発言もしていたらしく、70代の被害者である著名な作曲家服部公一さんの息子さんの奥さんにたしなめられるシーンもあったそうだ。

 

木花の回答に終始する菅官房長官に果敢に挑んでいる記者という私の中の比較的ポジティブなイメージは、9月7日のヒステリックなまくしたて質問を聞いて、「そら官邸からつまみ出されるわな」と思ってしまった。

 

日大の記者会見よりマシ

会見を仕切る女性のモタツキとお行儀の悪い記者も多いことが露呈した記者会見だったが、4時間余りの間、質疑応答に辛抱強く対応していたのは、謝罪会見だから当然とはいえ、そうしない組織もあるのだから一応それなりに評価できる。

 

日大のアメフト部の悪質タックル問題の時は、元大手メディア記者出身の人が大学の広報担当で、強引に記者会見を仕切り、短時間で切り上げて反発を招いたのとは対照的であった。

 

ジャニーズ事務所にとり、今回の記者会見はそれほど難敵ではなかったはず

マシとはいうものの、事務所にしてみれば、死んだ人を鞭打てば済むし、その死者とともに犯罪を隠蔽してきたマスメディア相手なんだから、ちっとも怖くはない記者会見だったに違いない。

最悪の人物はもう鬼籍に入っている。ジュリー前社長にとっては親ではなく叔父。ちょっと遠い。隠ぺい工作、圧力を行使して来たメリーは実の母親だから、辛かっただろう。が、それでも物故者。東山新社長にすればジャニーは恩人だろうが、所詮「他人」と割り切ることもできる。

 

厳しく追及されることを覚悟で記者を選別せず、門戸を広く開け、どんな嫌な質問も受けいれることができたのは、(もう死んじゃった)「あの人」の「鬼畜の所業」と言えばすむし、相手にする記者たちも、どんなに偉そうに質問しようが、長らく隠ぺいに加担してきた共犯者。

 

カウアン・オカモト氏の告白を引き出したガーシーの功績には、マスメディアはまた沈黙

ジャニーズ事務所に関する情報をフォローする中で、ガーシー前議員も登場してきた。暴露系ユーチューバーだそうで、国会議員になったものの一度も国会に出席しないまま、ドバイから帰国して逮捕された人だ。本名は東ナントカさんらしい。今年の春に外国特派員協会で顔出し記者会見をしたカウアン・オカモト氏がガーシーのユーチューブ動画に登場して初めて被害を告白したという。それが、昨年秋。BBCのドキュメンタリー番組放映に先立つこと半年前。

 

ガーシー氏も歴史的犯罪事件を広く世間に知らせることに一役買ったのだ!

 

米国の大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性加害事件を報道したニューヨーク・タイムズと同じくらいの功績か?

報道はどのみち知られていないことを広く公開するという意味では「暴露」である。

 

BBCという「外圧」が、半世紀以上にわたる性犯罪の隠ぺいの扉をこじ開けた、と一般に報じられている。日本はやはり「外圧」がないと変われない国なのだ、と言わんばかりに。

今頃になって何人かのメディア関係者が反省の弁を述べている。

 

週刊文春」は2000年前後に数週間にわたるジャニー喜多川の犯罪を記事にし、名誉棄損で事務所から訴えられたが、最終的には勝訴したと威張っている。もちろん他のメディアよりましだが、勝訴後は沈黙に近いようだ。ジャニー喜多川の葬式の時は、どんな記事を書いたのだろう。

 

ガーシーよりガイアツ効果の方が座りがいい
週刊文春」の前には、フォーリーブス北公次による暴露本もあった。「なぜその時、もっと大々的に取り上げなかったのか」と振り返る記事を読んだが、この本の出版社や背後にいる人物も今のガーシー氏同様、当時はキワモノ扱いされていたらしい。

 

NHKから国民を守る党」から出馬して、すったもんだの末逮捕された暴露系ユーチューバーより、BBCにお手柄を差し上げる方が座りがいい。天下の英国公共放送BBCの方が、日本の公共放送NHKに牙をむくN党の変なオッサン=キワモノより説得力、権威があるということだろう。

 

能年玲奈はいまだに本名で活動できない

ひろゆき氏は、既に表に引っ張りだされたジャニーズ事務所後出しジャンケンで叩くよりも、現在進行形で本名の能年玲奈で活動することを阻害している事務所を叩け、と言っている。2ちゃんねる創設者、というのもキワモノ扱いかも知れないが、間違ったことも言うが、時々いいことを言う人でもある。

 

例えガイアツや「外の目」でも、事態が動く方が良いけど

CMにジャニタレを起用することを見合わせる、としている企業にとっても、「ビジネスと人権」を監視する「外の目」の方が怖い。経済的損失の度合いはともかく、中国の官製不買運動は科学的根拠がないと反論できる。が、子ども相手に男色欲を抑えられなかった「変態じいさん」が作った会社と取引しているビール会社、航空会社、損保会社というレッテルを貼られる方が、企業イメージに対する損失は大きい。

 

キワモノの言うことにも耳を傾けるオープンさもメディアリテラシー
やっぱりガーシーよりガイアツ。

が、キワモノ情報が真実だった例はいくらでもある。

タブロイド紙やスポーツ紙は、早くからサリン事件はオウム真理教の犯罪だと報じていたという。一方、彼らの行き過ぎた報道が、冤罪を後押ししたこともあるらしい。

でも時にはキワモノの言うことにも耳を傾けるオープンさこそ、メディアリテラシー向上につながる、と私は思う。官製報道だけを信じているのでは中国と変わらない。
(2023年9月9日記)