パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

伊藤詩織さん事件(2019.12.25作成)

12月18日、東京地裁が原告の伊藤詩織さんの損害賠償請求を認め、被告の山口元TBS記者に330万円を支払うよう命じた。

 

簡易裁判を3回経験して、裁判官、裁判所が常に正しいとは思わないが、私はこの訴訟では伊藤さんを応援していたので、ほっとした。もっとも山口氏は控訴しているので、今後高裁、最高裁で地裁判決が覆される可能性はある。

 

元々山口氏が逮捕され、起訴、刑事裁判になるはずだったのが、安倍総理に近いとかで逮捕状は土壇場で撤回されたと言われ、検察審査会でも不起訴相当とされたことは不可解であった。日本では女性が貶められている、というストーリーが大好きな海外メディアも飛びついた。

 

酩酊し、嘔吐を繰り返すほど男性と飲んだ女性に落ち度がある、と伊藤さんを非難する人がいる。私も25歳前後まで、自分がアルコールに弱いことを自覚せず、好きでもないのに付き合いで飲みすぎて、嘔吐することは何回かあった。苦しい思いをするのは自分なので、数回の経験を経て、梅酒一杯程度で顔が赤く火照るだけにとどめることにした。「飲めない」とはっきり言うことができるようになったのは、40代を過ぎてからだ。「酒が嫌いだなんて失礼な奴だ」と思われたくない雰囲気におもねっていたのだろう。

 

事件当時の伊藤さんは25歳を超えていたから、ちょっと不注意ではあると思う。が、体調が悪かったのかもしれないし、それでもマスコミ業界の就活生として敬意を払わねばならないその業界の有力者である山口氏のすすめを断り切れなかったのかもしれない。

 

この判決後、例によって杉田水脈という女性国会議員が、伊藤さんに落ち度があるような発言をしている。「LGTBは生産性がない」と主張して「新潮45」を廃刊に追いやった人だ。(廃刊の最大の責はもちろん杉田論文(?)を掲載し、次号でも炎上を招く文章を掲載し続けた編集長にある。)「枕営業失敗!」と掲げた漫画家や「パヨク」(左翼嫌いと嫌韓を合わせる意味らしい)という造語を生んだモデル(?)と一緒に、杉田議員は発言していたという。怖いなあ、女性も。

 

男性ももちろん負けてはいない。東京都のある区議は「女性に落ち度がある」と言い切っている。まだ若いのに。夏、ノースリーブで満員電車に乗って痴漢被害に遭ったら、「そんな恰好をする女性が悪い」と言うのだろう。

 

ジョディ・フォスター主演の「告発の行方というアメリカ映画があった。ヒロインは酩酊し、露出の多い服装で複数の男性の前で体をくねらせるダンスを披露し、輪姦される。裁判では、服装や酒量も非難する場面もあった。セカンドレイプに加担する卑猥な男も登場する。が、合意のない暴力的な行為にヒロインがどれだけ傷つき、悔しい思いをしているかが、アカデミー主演女優賞を獲得したジョディの名演で説得力をもって描き出される。加害者が犯した罪は罪なのだ。この映画の製作は1988年。あれから30年、女性を取り巻く状況は少しも変っていないのか?

 

山口氏は記者会見で、「被害にあった女性は上を向いて笑ったりしない」とかなんとか的外れの発言をし、こんな分析力、発信力のお粗末な人がジャーナリストとしてワシントン支局長をやっていたのかと思うと唖然とする。

 

ダイアナ妃は結婚当初はおバカなミーハーだったが、不貞の夫で苦労して強く、魅力的な女性に成長していった。ジャーナリストとしての伊藤さんの活躍にも期待している。             (了)