パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

岸恵子―「孤独という道づれ」(2019.06.05作成)

今朝6月5日の羽鳥慎一モーニングショーでは、岸恵子さんの最新の本「孤独という道づれ」の紹介とともに、岸さんのこれまでの生き方についてインタビューをしていた。

 

もう86歳だそうだ。先日池袋で母子二人を交通事故死させた元通産官僚の老人は87歳。この高齢運転手は両手に杖でよろよろだったが、岸さんはかくしゃくとしていて女優オーラ満載。横浜の、庭にガゼボのある素敵な洋館に一人暮らしだそうだ。

 

笑った時の口が気持ち悪く、この歳なら仕方ないが歯並びも良くないので、この方をあまり美人と思ったことはない。ただ、おっしゃっていることはなるほどと思わせるものだった。

 

戦時中、空襲で防空壕に避難させられたが、こんなところにいては死んでしまう、と子どもなりに判断し、壕の外へ。その頃から「大人を信じてはいけない」「自分の好きなように生きる」と心に決めて生きてきたそうだ。そこまでは同感だ。

 

フランス人の映画監督と結婚してパリに長く住んでいた人だ。きっとジョルジュ・ムスタキのシャンソンJe ne suis jamais seul avec ma solitude.(私は決して一人ではない。孤独という道づれと一緒だから)をご存知なのだろう。これをパクって本の題名にした。

 

このインタビューを神妙に聞いていたTV朝日社員で辛口コメンテーターの玉川徹さんは、今朝は何故か挑戦しなかった。毎朝この番組を見ているわけではないが、1年ほど前、同じように「孤独をおそれるな」「孤独は楽しい」というテーマを扱っていた時、玉川氏はおおいに吠えていた。そういう類の本を出版している人たちは、本当の意味で孤独ではないのだ、回りに編集者もいるし、ファンもいる、という趣旨のことをのべ、暗に孤独を楽しんでいるというテーマで本を出版している文筆家―五木寛之氏や下重暁子氏―を批判しているようだった。

 

51歳の引きこもり男性が名門私立校カリタス学園のスクールバスを待つ子どもたちを刃物で襲って自殺したニュースの記憶が生々しいタイミングだ。容疑者の圧倒的な孤独―小学生時代の写真しかなく、自室にはパソコンもスマホもなく、行きつけの店のポイントカードすら発見されずーが強烈で、存在していた形跡があまりに希薄なことが驚きをもって報道されている時だから、玉川氏は、この容疑者の絶望的なほどの孤独、孤立に比べれば、岸さん、あなたの言う孤独というものは、ぜいたく品ですね、くらいのことを言うのかと思っていたのに拍子抜けした

 

下重暁子さんや岸さんを使って、ある年齢層以上の読者向けに「孤独」を商売のタネにしているのは、出版社だ。岸さんの本も幻冬舎から出ている。五木寛之氏のことは知らないが、筒井康隆氏が「歳をとったらあまりつきあいはしない。集まりに出ると必ずマウンティングする奴や自分の意見を押し付ける奴がいるから面倒。女性同士でも同じだろう」という趣旨のことを言っていて、こちらの方は説得力があった。

 

自分には家族がいるが、孤独を道連れに自立した素敵な人生を送っている、と言うこと自体自慢だし、贅沢な話である。本を出せば売れるかつての大女優の横浜の家には編集者が詰めかけ、お手伝いさんもいるのだろう。私は筒井康隆氏のように、年をとったらでしゃばらず、引きこもり気味の方がよい、という孤独の楽しみ方の方が好きだ。

 

話はそれるが、岸さんが24歳で結婚したフランス人監督はその頃からつるっぱげで、ヒヒじじい然としていた。貧しかった敗戦国の若い売れっ子女優が白人の中年男と結婚する。聡明な岸さんのことだから気づいているだろうが、当時は年上の白人男性に若いアジア人女性という組み合わせは、国力、経済力の合わせ鏡のようであった。豊かになった日本の女性は、今や自分よりずっと年下のイケメンを国籍、人種を問わず、パートナーにすることができる。金の切れ目が縁の切れ目ではあるが。  (了)