パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

松川るい参議院議員―エッフェル塔写真よりマズい次女同行

ここ数日、自民党女性局議員が、フランス研修中にSNSにアップした写真が話題になっている。

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女性局局長の松川るい議員は外務省出身。全く面識はないが、記憶に残る名前だし、確かこの方が外務省を退官した際、私を含む女性省員のメールリストに載っている人宛てに退官挨拶を送付してきたことを覚えている。安倍チルドレンで立候補する前のご挨拶だったのだろう。

 

その後、テレビの政治討論番組で弁舌さわやかに安全保障について語り、フォトジェニックな容姿や上品なファッションで頑張っているのだな、と思っていた。そこへ、このニュース。

 

エッフェル塔を背景に、両手を塔の形のように上げて、はい、ポーズ。「遠足」「修学旅行」と批判されている。これはアウトだな、と思っていたら、もっと決定的なダメージニュースが飛び込んできた。次女を同伴し、松川議員がフランスの関係者との会合に参加していた間、大使館員が次女のお世話をしていたという。

アカン!

 

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大使館員にとって外遊の国会議員のお世話とは

大使館員にとって、夏の国会議員の外遊、海外視察は、一大行事だ。役人が予算や法案を通してもらうには、多くの議員に面識がある方がいい。政治、民主主義は数なのだ。

大使館には外務省出身者だけではなく、色々な省庁からの出向者がいる。親元に戻った時に、自分の省庁の法案、予算その他で「国権の最高機関」を構成する国会議員の理解と支持をえることは必須。議員に密着し、名前と顔を覚えてもらう。

 

入省して3年目の夏、留学先の大学のあるフランスの地方都市からパリに呼び寄せられ、先生方の「観光」のお世話をした。大使館の幹部は、国会議員のお世話がなぜ大事かという説明などしてくれない。予算、法案等の議会対策は自分で納得させた理由だ。

国会議員の、「ここからあそこまでのグッチのネクタイを全部買う」という消費行動のお手伝いが、自身の仕事とどういう関係があるのか、何とか自分なりの答えを出さないとやってられない。まだまだアジア人、日本人蔑視濃厚だった時代、散財してくれる上客に対する、失礼で横柄な店員の態度にも我慢しなければならなかった。

 

配偶者(大抵は夫が議員だから夫人)同伴のケースは、なにかと気を使う。選挙区を預かる夫人に夫の頭が全く上がらないケースが多い。当時の社会党幹部議員の夫人は、「私はパリに来るときはいつもエールフランス」と誇らしげに言っていた。多くの先進国では、閣僚、議員、政府職員はナショナル・フラッグ、すなわち自国の航空会社を使うことが義務であった。税金を使っての出張だから。当時外国に飛行機を飛ばしていた日本の航空会社はJALのみ。なにがエールフランスだ、社会党幹部の旦那は夫人の航空会社選択にひとことも口出しできなかったのだろう。

 

当時も、エッフェル塔ルーブル美術館、夜のセーヌ川遊覧船バトームーシュ、昼食、夜食ともミシュラン星付きレストランが定番だった。経費支出は同行する衆議院参議院の事務局の役人が大使館員と協力し行っていた。車代や同席する大使館員の食事代、地方から呼び寄せられた私のような語学研修生の旅費やパリ滞在費はどうなっていたのか。まだ実務についてよく知らなかった。俗にいう機密費だったのだろうか?

確か、鈴木宗男議員が、外務省のラスプーチンと呼ばれた役人を使って、役所の仕事にあれこれ介入して以来、議員と役所は距離を持って接することになったはず。

 

役人の忖度を想像できない公私混同

今時、大使館員が議員の娘のお世話とは。総理の外国訪問中、観光をしていたと批判された息子の岸田翔太郎氏は、一応総理秘書官という官職についていた(当時)。松川議員の娘は未成年で公職にもついていない。もっとも松川議員の配偶者は現役の外務省幹部らしいので、まあ役所としても世話せざるを得なかったのだろう。

 

松川議員自身も外務省幹部の配偶者も、役人が忖度せざるを得ない状況にあることを想像力を働かせて、次女を同行させないという決断をできなかったのか不思議だ。

 

忖度は「私人」安倍昭恵氏の森友学園との関与から有名になった言葉

普通の公務員なら、子どもの面倒をみることができない時は、ベビーシッターを雇うのである。息子がまだ6―7歳のころ、高物価のスイスで、時給3000円のフィリッピン人のベビーシッターを雇って仕事をしていた。昼間ダラダラ仕事をして、夕方の退所時間近くになって決済を求めてくる部下には本当に困った。この人の仕事の段取りの悪さで、ベビーシッターの超過勤務時間が増える。タクシーのメーターみたいなものだ。「もっと早く持って来て欲しい」と言えばパワハラといわれるので我慢していた。

 

国会議員なら事務所に私設秘書もいるだろう。わざわざベビーシッターを雇わずとも、10歳を超えた娘の夏休みなら、事務所の片隅の机で宿題をこなす、という解決策もある。夜家に戻れば父親がいる。フランス外遊はたしか4日間だ。議員の留守中、次女を同行させずとも乗り切ることができたはず。明らかに公私混同。

 

私が外務省を辞めた理由は、税金で給料をもらっているのだろ、と言われたくない、事業を起こし、自分の才覚と工夫で稼ぐことができることを自分自身に示したかったから。が、その2-3年前、上司の公私混同が続き、つくづく嫌気がさしたのが退官の背を押す決定打となった。

 

組織のトップの公私混同を指摘するには、倍返し覚悟で勇気がいる

チュニジア大使館では、大使は知的障害のある25歳の次女の世話をするために大使公邸にこもり、大使館に出勤しない。今ならリモートワークの態勢も整ってきたのかもしれないが、秘密保全が完備した大使館に来てもらわないと、資料、情報が読めない状況だった。必要な情報なしに決済はできない。親の介護で仕事を辞めなければならなくなる普通の人も多いというのに。日本国全権特命大使は世界一高給のベビーシッターである。

 

普段は配偶者手当を支給されている大使夫人が、娘の世話をしているのだが、宝塚歌劇団所属の長女の公演期間中は、夫人は日本に帰国する。30歳前後の長女(十輝いりす)の私的なステージママ業務のためだ。

 

これが嫌で帰国したら、今度は学者出身の上司が、外国出張の度に夫人を同伴するのである。「貴女(私)は外務省出身でしょ、妻のために大使館、総領事館の公用車を用意してくれるよね」という無言の圧をかけられ、私はこの学者先生の出張先にある大使館、総領事館に連絡することになった。

 

松川議員はこれで終わったの?

松川議員は、自身も大使館勤務をしたことがあるはず。なのに、平然と役人(旦那の部下であり、有権者が選んだ国会議員に仕える公僕)に、娘の世話という業務外の仕事を強いる理不尽が想像できなかったのだろうか?エッフェル塔の三角ポーズをとった写真をアップするのはまだ「楽しかったから、つい写真を撮ってアップしたんだね」と目をつぶっても、この無神経な公私混同は、私の基準では許されない。

 

国会議員の妻が外遊する、娘は夏休みで学校に行かない、夫は官僚。こういう時にフランスのカップルはどういう行動をするのかを研修題材にすればよい。

 

公私混同についてもフランスから学べることもある

フランスは名だたる公私混同の国。社会全体が、互いに休暇等の個人の都合を仕事より優先することに寛容。それでも、政府高官、国会議員だけ得をする「ズルい」行動は批判される。それを避けるため、ベビーシッターを活用するのは普通のこと。アフリカ大陸、旧東欧諸国からの移民のお陰で、ベビーシッターはかなり気楽に雇える。これはアメリカも同じ。時々、違法移民をメイドに雇ったことを指摘されて、上院の承認が得られず閣僚ポストを棒に振る女性もいる。

 

子育てを社会全体で支えるための制度とは何かを考え、ベビーシッター、キッズクラブ(フランスのバカンス大手の地中海クラブでは、親が休暇を楽しんでいる間、子どもの世話をしてくれる)を充実する方策を、今回のフランス研修から学び、ひろゆき氏がいうように議員立法にして法制化すれば松川議員らの外遊も意義のあるものとなろう。

 

自民党岩盤保守層の考え方が日本少子化を悪化させていることに気が付いていない

が、そうはならないと思う。

松川議員は安倍チルドレンである。自民党、日本社会の岩盤保守層が支持基盤だ。ま、美人だから、と投票するおじさんもいるだろうが。

時給1000円を超えるとやっていけないような地方のゾンビ企業のために、海外からの技能実習生=実質的な移民労働者を招く制度を整えても、女性の子育てを支援するベビーシッター、家事手伝いを海外からの労働者に頼る制度に賛成するはずのない人たちだ。女は子育てで楽をしてはいけない、家事労働のすべてを一人で背負い、へとへとになるまで家族に尽くすのが女、と信じて疑わない人たちだ。女性が精子を選べる精子バンクや、同じく女性が人為的に出産時期を選べる卵子凍結にも眉を顰める人たちである。有効な少子化対策なら選択肢を広げよう、とはならない。

 

松川議員は、今回のデジタルタトゥーを挽回できるのか

家を4軒買った体験を書籍にして「役人のくせに」と批判された私は、確かに想像力が欠如していた。が、その後の現役時代に30億円ほどの日本国民のお金を外国から取り戻した後、役所を辞め、収入の原資を税金としないビジネスを始め、役所に頼らなくとも自立できることを自分に証明した。

 

デジタルタトゥーは消えない。が、それを挽回する努力は可能だと思う。それには自民党のゴリゴリの保守のくびきから脱しないと無理だろう。

(2023年8月3日記)