パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

安倍晋三の死後、ジャニー喜多川性加害事件が表出し始めたのは偶然?

「外部専門家による再発防止特別チーム」報告書

2023年8月29日、ジャニー喜多川による性加害に関する「外部専門家による再発防止特別チーム」による記者会見が行われた。予想以上に踏み込んだ内容だった。

 

7月4日の国連人権理事会*「ビジネスと人権」作業部会の専門家による記者会見に続くものだ。60年にもわたり、広範に、おそらく数百名に及ぶ少年たちに対する性犯罪は、もう「なかったこと」にはできない。

*各国の企業活動による人権侵害を調査し、対処を促すことを目的とする

 

特別チームは「マスメディアの沈黙」が犯罪に加担したことに言及している。NHKと民放がほぼ横並びのコメントを出した。が、具体的にこれからジャニーズ事務所との関係、事務所所属のタレントとの関係をどうするのかは不明。TBSは今後もジャニーズタレントを使い続ける、と表明している。

  • 長年子どもに対する人権侵害を続け、それを隠蔽してきた事務所は、これからも所属タレントを提供し、テレビ局とのビジネス(取引)で収入を得ていくのだろうか?
  • スポンサーは、ジャニーズタレントが出演するテレビ局の番組を支援し続けるのだろうか?
  • 企業はジャニーズタレントを自社のCMに使い続けるのだろうか?

米映画「She Said―その名を暴け」

報道しない、という不作為により、日本のメディアは間接的にしろ性犯罪を隠ぺいしてきたことが糾弾される中、アマゾンプライムで2022年11月公開の米映画「She Said―その名を暴け」を見た。

「#Me Tooに火をつけたジャーナリストたちの戦い」という説明が付いた映画だ。

2017年からニューヨーク・タイムズが、ハーヴェイ・ワインスタインという米国の大物映画プロデューサーによる女性たちへの性加害の取材を開始し、圧力に屈せず報道に踏み切る過程を描いた映画だ。「#Me Too 私も被害に遭った」という世界的な告発運動につながった。

 

外務省の外国プレス担当の国際報道課長職にあった時も、それ以降もニューヨーク・タイムズは日本社会の歪んだ側面ばかりをこれでもか、と強調し、あたかも米国は聖人君子の国であるかのような立場で報道するので好きな新聞ではない。それでも、ジャニー喜多川のおぞましい犯罪を正面から取り上げたのが日本では「週刊文春」だけで、他の(ニューヨーク・タイムズのような)大手メディアは見て見ぬふりをしてきたという「不自然」さは、まさに日本社会の歪んだ側面だ。

 

ハーヴェイ・ワインスタインジャニー喜多川の犯罪比較

似ている部分とそうでない部分がある。

共通点は、

  • 何十年にもわたり、
  • 強い立場を利用して弱い立場の者に対し、
  • 性加害を繰り返し、
  • 表明化しそうになると様々な隠ぺい工作に走った点。

 

ワインスタインは「示談」で「口外しない」という約束を取り付け、取材をするメディアに対しては嫌がらせをした。同様に、ジャニー喜多川と姉メリー喜多川は、性犯罪を隠ぺいするため、メディア、テレビ局に対してだけでなく、被害少年にも口外できないよう脅したのだろう。事務所退所をせまる、デビューできない、デビューしてもセンター位置にはつけない等々の不利益をちらつかせる。その一方で、言うことを聞いてればいいことがあるよ、と思わせる。

 

どんな組織でも、こうして立場の弱い部下をてなずける風潮はあるだろう。性加害も出世も取引の手段。政権への忖度を促すのもその一形態。

 

異なる点は、

ワインスタインは存命中で、収監されており、性暴力の対象は成人を含む異性の女性で合ったのに対し、

ジャニー喜多川は物故者で、その性犯罪の被害者は同性の少年たち「子ども」ばかりだったこと。

 

日本では、令和5年(2023年)6月16日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(令和5年法律第66号)が成立し、7月13日から施行されることになった。結果、性交同意年齢**が、13歳未満から16歳未満に引き上げられたようだ。改正前と比べ、より厳しく罰せられることになる「子ども」の対象が広くなった。

**性交がどのような行為か理解し、性交をするかどうか自分で判断できるとみなされる年齢

 

ジャニー喜多川生存中の犯罪は改正前で、13歳以上の少年も中にはいただろう。が、特別チームは被害者に「立証責任」を要求しないし、犯罪の「時効」も認めないとしている。この考え方に沿えば、被害に遭った時に13歳以上であったから、性交とはどのような行為か判断できたはず、なんてことも問わないだろう。犯罪の悪質さを考えれば当然だ。子どもに対する性犯罪には時効をなくせ、という声もある。

成人女性が相手だったからと言って、ワインスタインの性加害の方がましだ、と言うことではない。ばあさんになっていても、卑猥な言葉を投げかけられただけで本当に嫌なものだ。が、子どもに対する犯罪はあまりに卑劣だ。隠ぺいされていた欧米のカトリックの神父たちの犯罪と同様に実におぞましい。

 

ジャニーズ事務所、ジャニタレの今後

では、これからジャニーズ事務所、特に事務所のタレント(以下ジャニタレ)はどうなっていくのだろう。

ある弁護士は「ジャニーズ」という名称を外した事務所とジャニーズ事務所のふたつに分け、それぞれ別の役割を担うことを提案している。

前者は、経営陣も刷新し、所属タレントの人権を守りつつ、テレビ局等と取引する。

後者は、ジャニーが犯した犯罪の謝罪と賠償に徹し、その責務終了後消滅する。

 

なるほど。

所属タレントに罪はない、という人がいる。

が、既に功成り名を遂げた年配のジャニーズタレント(東山紀之櫻井翔、井ノ原快彦等)はどうなのか?退所して別の事務所を立ち上げた滝沢秀明ジャニー喜多川の犯罪との関係でどう評価すべきなのか。

 

消費者である私にできることは何か

テレビ番組視聴

ジャニタレが出演している番組は見ない、なんて大人気ないかもしれない。が、これまで大して面白くもない番組に漫然とチャンネルを合わせていたのが、この人もジャニタレか、と思ってチャンネルを変えるきっかけにはなる。まさに今日日曜の午前11時半からのテレビ東京「男子ごはん」なんかは即その対象になった。

大体この番組のレシピを試してみて美味しいことは一度もなかった。国分太一もアイドルと言うには肌のくすんだひげ面の中年男だし、あの栗原はるみの息子だという、レシピを披露する栗原なんたらは手が汚い。もこみちの長い指で包丁を握るとそれだけで美味しく感じたものだ。もう終了したあのMoco's Kitchenの料理も美味しかったことは一度もなかったけど。

どうでもいい番組をみなくなるきっかけになる。

 

消耗品や食品の購入

ジャニーズのタレントをCMに起用するスポンサーが提供する商品やサービスは購入しない。例えば、木村拓哉マクドナルド。

断捨離に努め、できるだけモノを買わずに済まそうと考えている年金生活者には、それほど苦痛ではない。時々マックのホットアップルパイを食べたくなるが、これからは我慢する。今思えば、TOKIOが福島の物品を応援してきたことは国策支援だったのかもしれないが、ジャニタレが応援しようとしまいと、自分は毎年意識的に福島の桃を美味しく食べてきた。今年も、これからも。

夏も終わりだが、虫刺されの「ムヒ」のCMは、相葉雅紀から中川大志に代わった。若返ったし、イケメン度73点くらいの相葉君より、98点の大志君の方がいい。ジャニーズオタクでもない限り、消費者なんてそんなもの。いずれにしろ、消費の主たる対象がわずかな消耗品である自分の影響力などほとんどない。

 

耐久消費財、家、不動産に関わる消費

木村拓哉日産自動車のCMに出ているが、当面自分は車を買うことはないだろう。今後自動運転車が広く日本の公道で使えるようになった時、ジャニタレをCMに起用しているメーカーの自動運転車は買わない。ジャニーズ事務所が名称も変え、被害者救済に全力で取り組み、解体的出直しをしない限りは。

その他にお金を投じる可能性があるのは家や庭のリフォームになる。ジャニタレが宣伝しているリフォーム会社があったとしたら使わない。企業活動は取引相手の人権尊重姿勢にも配慮しなければならないのだから。そして、リフォーム契約当事者である私は、企業からみればどんなに少額でも契約相手が提案する製品、部品を提供する企業のその先の人権意識を問うて行こう。考えうるメーカーは、リンナイパロマLIXILTOTOYKK東京ガス大阪ガス、Harman等々。輸入品なら独グロエ、米Kohlerの水回り製品。エンタメ業界のジャニーズ事務所に限らず、異なる業界のメーカーも製品製造過程で人権を尊重しているか、しっかり見て行かないと。

 

かつて、スニーカーのNIKEが、まともな労働環境ではない途上国の生産現場で製造した靴を世界中で売りまくっていたことが糾弾された。靴を履けない労働者が靴を作っている!として。国連人権理事会の「ビジネスと人権」というテーマはこのあたりが発端となったのだろう。

 

消費者も自分の手に取る製品、サービスのその先にある現場の人権状況に心を配るべきなのだ。爆安日本の250円の持ち帰り弁当なんて買う前に、どれだけ調理現場で、また食材提供の現場で高齢労働者、外国人労働者が搾取されているか、想像力を働かせないと。


なぜ、メディアは沈黙してきたのか?
ここまでは消費の当事者としての心構えだが、以下はもっと深い日本の闇に関わるかも知れない。

 

ニュース、情報番組へのジャニタレの進出

東山紀之中居正広、桜井翔がキャスターを務めるニュース番組は見ない、なんてのは私にとっては簡単だ。ほとんど見てこなかったのだから。別にジャニタレにウクライナ情勢やコロナ問題、少子高齢化対策を扱う番組を仕切って欲しいと思わない。日本の政局や中国、ロシアのことが気になれば、BSの報道番組でその分野の専門家が延々と解説している。同意するかどうかは別として。

 

安倍政権とジャニーズ事務所

ここで由々しい事態と振り返るのは、安倍政権とジャニーズ事務所の緊密な関係だ。

安倍さんが暗殺された後、多くの地方議会議員選挙で、自民党を中心に立候補者が統一教会選挙協力に頼っていたことが報じられた。全国津々浦々に統一教会に好意的な政治家を送る計画だったのだろう。地方議員から国会議員へと統一教会の影響力は浸透していく。ジャニーズ事務所NHKや民放各局に所属タレントを送り込み、報道のコンテンツにまで影響力を及ぼし、がんじがらめにしてきた手法はよく似ている。テレビ局も喜んで巻き込まれてきたのだろう。視聴率を上げるのだ!という号令の下に。

 

「マスメディアの沈黙」が特別チームの報告書のキーワードのひとつだが、メディアを黙らせた背景には、安倍政権の影も見え隠れする。東山紀之以外にも国分太一や中丸雄一らが報道やワイドショーに出演してきた。「日刊ゲンダイ」ネットによると、ジャニタレが報道番組のMCに登用されはじめたのも安倍政権時代と符号するそうだ。

今年話題になった、岸田翔太郎とその親族が組閣もどきや寝そべり写真を撮影した官邸の赤じゅうたん階段で、安倍総理TOKIOの4人が談笑している写真が、2018年の官邸ホームページに掲載された。

 

福島県産の物品をプロモートしてくれるTOKIOは、東京オリンピック誘致の際に福島は安全、原発事故による放射能汚染の心配はない、と見えを切った安倍さんにすればありがたい存在だったのだろう。TOKIOとバックのジャニーズ事務所は日本の国策に加担してくれていた。事務所社長の性加害を表に出すなんてとんでもない。

www.nikkan-gendai.com

 

2019年のジャニー喜多川のお別れの会に、現役の総理(当時)として弔電を送り、各種情報源を通じ当然性犯罪者と認識していた人物を称えている。2021年には、日本人を搾取、家族崩壊を招いてきた統一教会韓鶴子に「敬意を表します」と称えるメッセージを送り、山上徹也を手作り銃の製造へと駆り立てた。なんとも罪作りな政治家だ。

 

安倍元総理が亡くなって1年もたたない2023年春から、BBCのドキュメンタリー、外国特派員協会でカウアン・オカモト氏らの顔出し会見、そして国連人権理事会の調査団へと立て続けにジャニー喜多川の犯罪が公表されていった。

 

1989年に昭和天皇が亡くなり、天皇の戦争責任や歴史認識問題が韓国や中国から提起されるようになった。その動きを現役の外交官としてみてきた自分は、昭和天皇という重しが取れ、タブーだったことが噴出し始めたのだ、と思った。

大日本帝国憲法下で天皇には直接の戦争責任はない、というのが公式見解であったが、戦争を終わらせることをできた天皇が、戦争を始めることはできなかったと主張するのは矛盾している、という反論を突き付けられた。)

同様に、安倍さんという重しがとれ(タガが外れ)、フタをされてきたジャニー喜多川の何十年にもわたる性犯罪についての情報が噴出し始めた、というのはうがった見方過ぎるだろうか?

ジャニー喜多川自身が亡くなったから、隠ぺいに腐心していたメリー喜多川が亡くなったから情報が流れだした、という面はあるかも知れない。が、被害者が数百人もいれば、これまでもどこかから加害情報は漏れていた。それをマスメディアが伝えなかったのは、ジャニーズタレントの人気にあやかって安倍晋三が自身の政権の好感度を高めようとしていることを、政権に近い大手メディアの幹部が認識していたからだと思う。

 

(2023年9月3日記)