パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

カルロス・ゴーン逃亡(2020.01.05作成)

令和元年はゴーン氏の極秘の日本脱出成功の大ニュースで終わった。安倍政権はこの件について沈黙を保っている。

 

マスコミが報じてきた、日産自動車の反ゴーン派や検察のリーク内容の正否は知る由もない。予定通り裁判が行われたとしても、真実がどこまで明らかになるか不明だった。裁判とは真実を暴き出す場と言うよりも法廷闘争の場なのだ。

 

日本脱出について感じたことは二つある。

  • 1.ゴーン氏が様々な手段を使って蓄財に励んでいたことは間違いない。
  • 2.日本では冤罪事件が多い。

 

ゴーン氏が強欲に見える背景には以下の3点があると思う。

  • (1)ビル・ゲイツイーロン・マスク、或いは前澤勇作と違ってゴーンは創業者社長ではないから、報酬、財産には限界があった
  • (2)再婚した年下妻や家族が、金づるの日産の(株主の)財産を自分のもののように思っていた
  • (3)家族や親戚縁者の面倒を見なければならない文化的背景がある

 

ベルサイユ宮殿での再婚の結婚披露宴費用に、ルノーの文化振興スポンサー契約を不正に利用した、という疑惑がフランスで報じられている。これは日産や日本の検察のリークではない。息子や親戚縁者名義のShogunとかなんとか不思議な名前の会社やヨットがあるそうだが、映画の登場人物の名前をつけた特定目的会社を利用した不正経理粉飾決算で巨額の損失を出して破綻したエンロンを思い出させる。ゴーン氏は数学にも強い経営者だったから、数字の操作シナリオも簡単に思いついたのかもしれない。

 

地に落ちたかつてのカリスマ経営者となってしまったが、日本側には脛に傷がある。

アマゾンプライムで、1994年の松本サリン事件を題材にした「日本の黒い夏[冤enzai罪]」という映画が突如私へのお勧めトップになった。気持ち悪いことに、じゃらんやYahooトラベルで松本のホテルを予約して以降のことである。ネットによる宿泊予約履歴も流出しているのだろう。

 

それはともかく、中井貴一、寺尾聡の映画は、実話を元に無実の会社員を犯罪者に仕立て上げる警察とマスコミの姿を描いている。製薬会社勤務の経験のある会社員が疑わしいという当時の報道を自分も覚えている。会社員は第一通報者で、ご本人も入院。妻は長年意識不明の寝たきりとなり、闘病の末事件から14年後に亡くなる、という非常に気の毒な事件であった。松本事件発生のタイミングで、捜査当局は、オウム真理教集団が山梨で化学物質を製造していたという情報をつかんでいたらしい。

 

国家公務員合同研修をともに受けた厚生労働省村木厚子さんは、大阪地検特捜部が証拠を改ざんしてまで犯罪者に仕立て上げた。村木さんは入省当時しか記憶にないが、およそ強欲さとは無縁の地味な人だった。

 

警察も検察も暴走する。だからゴーンさんは清廉潔白だ、犠牲者だ、とは思わない。チュニジアというレバノン同様に中東の穏健派といわれていた小国で、大統領とその再婚相手の若妻一族が、強権を行使し、いかに私腹を肥やしていたかを目の当たりにしたからだ。2010年末の「アラブの春」の引き金となった政権である。ベン=アリ大統領夫妻は、サウディアラビアに亡命。中東諸国だけではなく、フィリピンでもマルコス大統領夫妻が反政府運動の中で、米国に亡命した。国家の問題だが、企業でこうしたことがあっても不思議はない。エンロンは米国のエネルギー会社だった。

 

ゴーン氏は1月8日にもレバノンで記者会見を開く予定だそうだ。自らの潔白と、いかに日本の司法当局にひどい目にあわされたかを主張し、生涯反日反日を貫くのだろう。

 

拘留期間中の扱いは内外無差別だったのだろうが、ベルサイユ宮殿で結婚披露宴を行い、プライベートジェットで移動するVIPには耐えがたいものだったに違いない。第二次大戦中、連合軍の捕虜を非道に扱ったと戦後長きにわたり非難されてきた日本(軍)である。同胞の兵卒などへの体罰、虐待、粗末な食事と同じ扱いだった、「内外無差別」だった、と言っても詮無い。対外広報戦略上、大変な人を敵にしてしまった

 

ゴーン逃亡は「寝耳に水」「鍵のかかったもう一冊のパスポートの存在を失念していた」と寝ぼけたことを言う「無罪請負人」とやら、割と日本では偉いと言われている人が、そんなに偉くないことがよくある。年末の「事務次官」について書いたブログの通りだ。ゴーンさんを偉い偉いと崇め奉っていたら、とんでもない守銭奴だったのと同じく、「無罪請負人」「凄腕弁護士」とおだてていたら、本当はお粗末な人だった、のかも知れない。                              (了)