パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

山田真貴子、丸川珠代、橋本聖子はアウト、小池百合子さんにはちょっと期待、ゲームチェンジャーになれる日本女性は事業者からか?

2月は、森前東京五輪パラリンピック組織委員会会長の「女性の参加する会議は時間がかかる」発言から、菅総理秘蔵の女性内閣広報官の違法接待、辞任ニュースまで、日本社会の女性を取り巻く状況について考えさせられることが多い1か月だった。

 

「わきまえる女」、「わきまえない女」

山田前広報官は間違いなく「わきまえる女」だった。

服装:黒い地味なパンツスーツに少しだけ色と華を添えるブラウス

言動:広報官の割に若干おどおどした話し方は、日本の高齢で権力のある男性の庇護意欲をそそる

体型:テレビでみてもあれだけ細身なのだから、きっと安田成美風のやせ型、楚々とした(言い換えればガリガリの)

文字通り「ジジ殺し」だった。

 

加えて、東京大学法学部卒ではなく、早稲田の法学部というところも、東大に合格できなかった男性にとっては、コンプレックスをひとつ減らしてくれる属性だ。

 

私の霞が関同期に、検察に冤罪逮捕された村木厚子さんがいる。真面目で、仕事熱心な「楚々とした」人で、出身は高知大学。入省研修以来、特に接点もないが、当時の印象は「気立ての良い」「地味な」の人だった。地方の秀才。上京して厚生省に入省し、懸命に働き、国会で野党の強力も得ていくつかの法令を通し、制度を変えていった努力の人だ。

 

その後厚生省は労働省と一緒になり、冤罪が晴れ、巨大官庁厚生労働省の次官になった。「女性」事務次官の誕生だ。筑波大付属、あるいは東京学芸大附属高校から東大法学部を経て、財務省(大蔵省)でキャリアを積んだキラキラした経歴で、いかにも生意気そうな女性、例えば片山さつき議員と比べ、村木さんは同じくらい優秀なのだが、オジさん方にとって高知の田舎から出てきてよく頑張った、しかも冤罪で収監までされて可哀そう、という非常に大きな加点要素があった。

 

山田広報官は楚々としながらも「飲みっぷり」がいいことでも男性にとっては付き合いやすかったのだろう。

 

「ジジ殺し」に男女差はない。男性も「わきまえない」と

組織の中で力のある人に引きたてられるには、あまり男女の違いはないように思う。どんなに優秀でも「わきまえない男」はつぶされる。努力家で付き合いがよければ、上司にとっては使い勝手が良い。しかも自分を脅かすようなことはしない=「わきまえている」。菅総理にとっての、鈴木北海道知事みたいに。

 

高卒で東京都庁入り。定時制大学で学び、夕張市出向、薄給の夕張市長となり晴れて北海道知事に。ビジュアルも良い。男性も「ジジ殺し」でないと順調な出世は難しい。

 

「世論」「市場=マーケット」の後ろ盾は、組織の後ろ盾に匹敵する

橋下徹大阪府知事、元大阪市長は一見「わきまえていない」ようだが、人たらし的要素はお持ちのようだ。ペラペラよくしゃべるし、暴言も吐くが、うっかり偉い人の虎の尾を踏んだ後の謝り方もうまい。安倍さんや菅さんとの関係は良かった。今はTVコメンテーターで、安倍さんの「桜を見る会」や菅長男の問題について苦言を呈している。器が小さく、根に持つタイプの菅さんが今も良く思っているかは不明。

 

官僚と違って、組織内の偉い人の覚えがいいだけではなく、世論も味方にしたことが橋下さんの強みだろう。大阪都構想は潰えたが、色々な改革は進んだ。一般大衆、市場から評価されたということだ。同じ役所の上司、そこからつながる政治家だけを見てきたのではない点が、山田広報官との違いだ。

 

小池都知事は「わきまえない女」?

キャスターとして登用され、政治家に転身した頃の小池さんが、今のように自民党幹部(とそのマウスピースである田崎史郎氏)に蛇蝎のごとく嫌われる人だったとは思わない。美貌と華とアラビア語、英語、そして発信力を武器に上手に政界を泳いでいた頃は、「わきまえる女」だったのだと想像する。

 

その小池さんは権力欲も人一倍強い。年齢を重ね、「こんなアホなオッサンらに政治を、日本を任せられるか」という本音を隠さなくなってきた。

 

自民党には女性議員は60過ぎたら使い捨て、の不文律があるのではないか?

安倍総理は日本の総理としては若かったから、引き立てられる女性議員も若返った。稲田朋美氏、高市早苗氏。年齢+ネトウヨ受けする言動は安倍さんに登用されるための重要な要素だった。

 

菅総理は73歳だが、60過ぎた片山さつき氏、参議院だが70過ぎた猪口邦子氏は、1-2回大臣や政務官をやらせてもらったのだから、もう閣僚の目はないのだろう。なぜか女性閣僚は皆総理より年下、それもかなり!橋本聖子氏、丸川珠代氏は50代。

 

上川陽子法務大臣のように実務に手堅い人は、齢をとっても(現在68歳)場合によっては便利に使われる(なんせ、公職選挙法違反で逮捕された河井克行氏の後任の法務大臣なのだから)こともあるが、自民党女性議員は60過ぎたら使い捨て、の不文律があるのではないか?と思う。男性議員は滞貨一掃内閣で、70過ぎて全く適材適所でないIT担当大臣なんかに就任することもあるのに。小池さんも50代で防衛大臣までやれば、もう内閣総理大臣しかない。当面は都知事でもやって様子をみるか、という風にも見える。

 

小池百合子は「強い男」を敵にする

発信ばかりだ、実績がない、と批判する人も多いが、私が小池さんを評価するのは、自分より強い男性を敵にするのを厭わず、しかも勝負に勝ってしまう点だ。

 

防衛省天皇守屋武昌東北大学出身、防衛庁防衛省に格上げし、5年近く事務次官の地位にあったが、小池防衛大臣に解任された。その後、収賄罪で逮捕、有罪判決を受ける。

・都議会のドン内田茂―長年、都政は内田氏中心に回っていたとされる。小池さんは2016年夏の都知事選で「小池旋風」を巻き起こしながら、内田氏を追い詰めていった。

菅総理―コロナ対策で国と自治体の権限の曖昧さが露呈する中、菅総理はGoToトラベルから東京都の除外を決定。2021年初頭の緊急事態宣言では、都知事が神奈川、埼玉、千葉の知事を引き連れ、官邸に乗り込み判断を迫ったと言われる。

 

小池さんには、丸川珠代橋本聖子にはない「強い男」に対する政治的闘争心がある。あまり「女性の地位」を口にしないが、「権力者」=強い男に対する彼女なりの義憤もあるのだろう。若い頃に結婚離婚を経験し、齢70近くになり、今後婚姻の可能性、その結果として姓を変える可能性もない点は、女性政治家として「選択的夫婦別姓」問題について、「貴女は、大抵は女性に不便を強いる現行法制を容認するの?」と糾弾される弱みもない。風向きに敏感な小池さんのことだ、国民の多くが(強制ではなく)「選択的」である夫婦別姓を容認しているのだから、としっかり理解を示している。

 

橋本聖子の闘争心は運動競技についてだけ?

元運動選手だから闘争心は強いはず。夏冬で7回オリンピック出場、なんて闘争心がないとできない。が、自民党内では、都合の良いわきまえる女に徹している。高橋尚子吉田沙保里のように、オリンピックで金メダルを獲る圧倒的な凄さもない。たったひとつの銅メダルもなんだかお情けのように獲得したメダルで、このあたりも「よく頑張ったよな、金じゃないけどそれでいいんだよ、聖子ちゃん」とオジサマの「よしよし」という気持ちをそそる要素だ。

 

丸川珠代内閣府特命担当大臣男女共同参画)兼国務大臣東京オリンピックパラリンピック競技担当)アウト

3月に入って国会で「選択的夫婦別姓」をめぐり、丸川大臣は物議をかもしている。選択的夫婦別姓制度の導入に反対するよう地方議員に求める文書に名前を連ねていたことへの説明を何度も求められたのに、すべて答弁拒否したとか。男女共同参画担当大臣なんだけど。

 

50歳になったばかり。自民党の中で更に高みを目指すには、守旧派=結婚したら妻は自分のモノになる、女が夫の姓を名乗るのはその象徴的行為、と信じて疑わないオジさんを味方につけるには、ここは死んでも譲れないのだろう。戸籍上は「大塚」姓らしいが、選挙の時だけ「丸川珠代」、銀行口座もクレジットカードもパスポートも皆「大塚珠代」。総理を目指すのならこんな不便は大したことない、ということなのだろう。ヤダね。

 

日本のローザ・パークス、アウン・サン・スーチーは誰?

台湾の李登輝総統が亡くなった時のエントリーで、総統がMr. Democracy、韓国の金大中氏が「東洋のネルソン・マンデラ」と称されているが、日本のMr. Democracyは誰か?について書いた。

https://blog.hatena.ne.jp/IeuruOnna/ieuruonna.hatenadiary.com/edit?entry=26006613673533537

 

 結論は容易には見当たらない、だった。「板垣死すとも自由は死なず」と名言を吐いた板垣退助は百円札になり、「日本資本主義の父」は渋沢栄一で1万円札になり、今年の「大河ドラマ」になっている。日本では投獄され、犯罪者の汚名を着せられながら主義主張を広めていった人は男女を問わず少ないのかも知れない。

 

女性の地位向上では平塚らいてう、市川房江、加藤シズエのような先人もいる。が、官僚出身で偉くなる女性には、そんな迫力はない。森山真弓太田房江で印象に残るのは、森山官房長官、太田大阪府知事として大相撲の土俵に上がり優勝力士を称えたい、と言ったことだけ。どれほどの熱意で言ったのか不明だし、大相撲以外で女性の地位向上に努めてきた官僚、政治家だったかどうか実績も不明。

 

労働省の婦人少年局長は必ず女性が就任するポストなので、森山さんも粛々と「強い男性」の虎の尾を踏むことなく事務処理してきただけのように思う。

 

山田真貴子氏も女性の官僚として地位を極めても、ゲームチェンジャーになる気概もなかったということだ。彼女以外の役人としてそこそこの地位を得た女性たちも、企業の社外取締役や顧問に就いても、結局は「わきまえる」人としてしか期待されていないし、期待通りにふるまっている。

 

「食べチョク」とか京都の「佰食屋」とか面白い事業を起こした若い女性もいるが、どうしても事業規模は小さくなる。DeNAのような上場株式会社に成長し、経済団体の役職に名を連ねると、もうお終い。冒険はできない。学者なんて、アカハラ横行の学会では「わきまえる女」でないと、論文も読んでもらえない。上野千鶴子氏はゲリラ戦で名を上げた。橋下徹型だろう。世論、市場で一定の評価を獲得して地位を固めるしかない。

 

21世紀の「日本資本主義の母」に期待

男女を問わず、組織の出世の階段を上がるにはマジョリティに引き立てられるよう「わきまえ」なければならない。一匹オオカミで、好きなことを追求しそれなりの経済力をつけた男女が増えれば社会も影響を受ける。もし、日本女性でアップルのスティーブ・ジョブズやアマゾンのジェフ・ベゾスとは行かずとも、その10000分の1くらいの事業規模のゲームチェンジャーが現れたら、巨大な資本力で世の中を変えられるかも知れない。

 

いや、日本では規制が多く、役所に日参し、政治家の後ろ盾を得ないと新しい事業など起こせず、拡大もできないことも事実だ。自身の退職後の小さな事業でも、重箱の隅をつつくような不合理な規制を盾にとる京都市役所の木っ端役人を目の当たりにした。オジサンというにはまだ若い40歳前後の課長だったが、ペティ・ビューロクラットを絵に描いたような人物だった。中央官庁にも地方自治体にも、国の富を増やすこと=多くの人々を豊かにすることよりも、いけずをすることに無情の喜びを覚えるしょうーもない役人がうじゃうじゃいて税金で禄を食んでいる。米国で成功して日本に凱旋する、というルートしかないのだろうか?

 

自民党の政治家で当選回数を重ね、嫌なオヤジの言うこと(触ること)にも笑顔で返し、選挙遊説中は「有権者」のおさわりに耐え、閣僚を目指す。あるいは霞が関の官庁に入り、飲み会に付き合い、上司、政治家、記者からのセクハラに耐える何十年という徒弟期間を過ごし局長、次官を目指す。効率が悪すぎる。木っ端役人のいけずは避けて通れないとしても、自分で起こした事業、あるいは親から引き継いだ事業でも、市場の支持を得て、資本主義のパワーを使いこなす方が早いはず。

 

「日本資本主義の母」が生まれ、来世紀にその女(ひと)がヒロインの「大河ドラマ」が生まれれば凄いね。NHKがまだ存続して大晦日に「白組」「紅組」に分かれての歌合戦を続けているとして。                             (了)