パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

官僚がすごいエリートだと騒ぐ国(2018.03.作成)

彼岸の日なのに、東京は雪。昼のバラエティ番組では財務省の官僚がいかにエリートか、公文書改ざんの責任者だとされている佐川前理財局長のエリート街道まっしぐら人生をえんえんと伝えている。

 

1987年4月に名古屋国税局高山税務署長になったそうだ。バブルの真っ最中。佐川さんとほぼ同じ年次のある財務官僚は、税務署長になると各方面からご祝儀が提供され、500万円にもなった、とうそぶいていた。その話を聞いたのは1990年ごろで、自分の税金についての知識は乏しかった。今なら「(ご祝儀を頂いて)贈与税はお支払になりましたか?」と聞いていみたいところだ。

 

佐川さんがいかにエリートか、と嬉々として語るのは、東大法学部首席卒業、財務省入省、退職後弁護士になり、勉強の仕方についてのハウツー本で有名になった女性元財務官僚である。多くの人にとって財務省は遠い存在だから、彼女の話は新鮮なのだろう。「北朝鮮ってこんなところなんだよ」と何も知らない人に語るようなものだ。

 

外務省が財務省経済産業省と並びエリート官庁とは知らなかったが、自分の18歳、22歳の時の経験を踏まえると、受験勉強を開始し、成績が上がってきた高校生は、より偏差値が高い大学、学部を受験したくなるものだ。親兄弟が医師なら医学部進学、官僚ばかりだと国家公務員コースの法学部が自然な選択だろうが、多くの受験エリートにとってみれば、18歳で「これがやりたいから」と明確に自分の進路を見つけられるものでもない。高校の進路指導も「合格できる大学、学部」に受験生をいざなうことが中心だ。

 

難関大学の難関学部に入学してからの進路は、もう少し意思が明確になる。司法試験合格などそれほど苦痛ではないから法曹の道に進んだ、という人もいる。人権や環境問題に取り組みたいと何度も司法試験に挑戦し、30歳近くになった人には想像もつかないだろうが、成績がいいから、成績がいい学生を求めているところを就職先を選ぶという若者もたくさんいる。東大法学部から財務省に進んだ学生が、「日本の財政再建を実現したいから」「日本人が貯蓄より投資に向かうよう制度を整えたいから」という動機だったとは、およそ信じられない。足の速い子、身体能力の優れた子がアスリートを目指すのと同じ。スポーツエリートにとってのオリンピック金メダルのように、受験エリート国家公務員試験で好成績を納め、財務省はじめ、許認可権限の強い役所を目指すことになる。スポーツで成功する方が、はるかにハードルは高いが。

 

動機よりまず能力が伴わないとだめなのだが、目指したエリート官僚人生の到達点が、公文書改ざんなら悲劇だ。先日、大田現理財局長が、和田政宗自民党議員(NHKアナウンサー出身)の「(局長は)民主党野田総理の秘書官をやっていたので、安倍政権に不利な発言をするのだろう」という趣旨の発言に、声を震わせ反論したのには同情する。が、超エリートの目的が誰かに「お仕えする」人生とはいかにも残念だ。宿探しで、民間宿泊施設とともに国家公務員共済組合の宿(KKR)を探していたら、宿のトップの「国家公務員共済組合連合会理事長」は、財務省出身で内閣府事務次官をやっていた人だった。これもまたエリート人生の最終到達点だとしたら、日本のエリートとはなんと小さいのだろう。

 

日本国のために、世界のために何の富も生み出していないこれだけ日本の国家財政を赤字にした挙句、消費税率の引き上げに心血を注ぎ、おそらく税務署長就任の際に受け取ったご祝儀にかかる贈与税もを納税していなかった人たちがエリートなはずがない。

 

アマゾンのジェフ・ベゾス、テスラのイーロン・マスク、亡くなったアップルのスティーブ・ジョブズ。世界には綺羅星のような天才がいる。日本にもユニクロの柳井さんや、楽天の三木谷さん、AbemaTVの藤田さんもいる。日本の受験エリートが、富を生み出す人たちよりも、ゲームのルールを変えるほど革新的な仕事をした人よりも、創業者社長よりも、企業の活動を規制したり、税金を課したり、あるいは退官後○○商事、△△物産の顧問や社外取締役になることを夢見る官僚に憧れるのなら、日本の経済力はどんどん弱くなるのだろう。     (了)