パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

トランプ大統領来日ー儀礼外交(2019.05.27作成)

5月25日に米国のトランプ大統領夫妻が令和初の国賓として来日した。数日前からテレビで映像が流れている。千葉でのゴルフ、両国国技館での相撲の千秋楽観戦、六本木での炉端焼きが続き、今日はいよいよ日米首脳会談と宮中での行事だ。

 

当然首脳会談がメインだろうと思うが、本格的な結論は夏の参院選の後とのこと。

 

両首脳の後ろに通訳が控える映像、天皇皇后両陛下が出迎えられる皇居での行事も流れている。米国のような大国でもなく、日本との関係もそれほど緊密ではない国からの訪日客を迎えた現役時代を思い出す。

 

外務省の現役儀典長や、外務省を退官して宮内庁の式部官長になった人の活躍の時なのだろう。自分は結局こういう「儀典」というものが好きになれなかったように思う。おもてなしをしても外交上の実質的な成果に結びつくわけではないからだ。まさに「外交儀礼」。

 

日本の悪口をさんざん言いながら、昭和天皇からの勲章が欲しいので1980年代のある5月中旬に無理やり日本を公式訪問したい、とごり押ししてきた人がいる。トルンという、人口30万人ほどのルクセンブルクの首相からEC(当時)のトップになった人だ。この訪日の数日前に日EC閣僚会議が開催されている。実質的な話はこの閣僚会議で扱うのだ。トルンさんの訪日は全くの儀礼、勲章目当てである。それで日本側の関係者のゴールデンウイークがつぶれた。ヨーロッパに日本の首相が行く時期として夏を打診したら、相手は休暇中に来るな、と鼻から拒否だ。ルクセンブルグのような小国の元首相(=終わった人)に、勲章を与えても何の勝算もない。トルンさんが日本との関係を良好にするために尽くした、という全くのでっち上げを書かされた担当者としては今でも口惜しい。マル政(政治の政と言う字を○で囲む)案件とよばれる、有力政治家が是非にと言っているので、無理を承知で実現させる案件だった。一昨年、連日話題になった「森友学園」問題もマル政案件だったのだろう。

 

スイス大使館時代に当時の中川昭一農水大臣の肝いりで、スイスのダイス元経済大臣への叙勲を、というマル政案件の時は、功績調書起案は軽く筆が走った。実際に功績があったから、中川大臣も推薦したのだろう。100%自薦のトルンさんとは大違いだ。ダイス大臣は元々学者出身で、大臣辞任後は大学で教鞭をとっており、公共交通機関で約束の場所に現れるという、全く気取らないナイスガイだった。

 

同じスイス大使館勤務時代のアメリカ大使は、ビジネスマン出身で、当時の大統領の当選に貢献し、政治任命でスイス大使になった人だった。スイスの銀行の秘密主義が米国人の租税回避を増長し、マネロンも招いているという米国側の怒り以外、大した懸案もないので大使としては力が余っていたようだ。自身が主催する国祭日レセプションなのに、最初のスピーチを終えると、広い庭の誰もこないところに小人数の仲間内で隠れているような人だった。

 

役人出身の大使は、国祭日(日本なら天皇誕生日、米国なら7月4日の独立記念日)のレセプションを任国大使として来客をおもてなしするというのは非常に重要と捉えている。これが大使として最大の仕事だと思っている人もいる。相手国には決して要求せず、嫌われないようにして退任後相手国から勲章をもらうことが最大の目的という人もいる。どっちを向いて働いているのか、とも思うがこれが役人的発想なのだろう。

 

トランプさんを見ていると、この在スイス米国大使に任命されたビジネスマンを思い出す。最大の関心はディールで、おもてなし、外交儀礼は苦手なのだ。トランプさんは日本側のおもてなしは、令和初の国賓とか、異例の厚遇とか自尊心をくすぐる部分では歓迎なのだろうが、来年の再選を確かなものにするような日本側からの譲歩を得る(ディールを成功させる)必要がある。選挙に勝つ(そして自分が実現したいことを推し進める)というのが政治家の最大の目的である。その意味で、ゴルフ、相撲、炉端焼きで接待攻めにし、実質的な協議結果は、7月の参院選(あるいは衆参同時選挙)で安倍政権の基盤を盤石なものにした後に示す、とトランプさんに言わせた安倍さんもまぎれもない政治家である。                     (了)