パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

吉村大阪府知事と菅いけず官房長官(2020.07.24作成)

今日はコロナがなければ東京オリンピックの開会式の日だった。梅雨空の下、すったもんだの中、旅行代金の一部を税金で肩代わりするキャンペーンが一昨日から始まった。東京は対象外となったが、大阪の感染者数が過去最多の中での開始だ。

 

観光立国をかかげ、インバウンド需要で潤ってきた自分も含めた観光業界にとっては、コロナで客が皆無という状況は由々しい。宿泊施設、観光バス、タクシー会社が倒産すれば、融資している銀行も焦げ付く。パンデミックからシステミックリスクでは二重の悪夢だ。

 

国も地方も何とかしなければという焦りがあるのは分かるが、このGoToで更に感染は拡大し、医療も経済もにっちもさっちもいかなくなる恐れがある

 

「東京はずし」でGoToを強行突破した菅官房長官は、にべもなく東京の感染者増は「東京問題」だと突き放している。小池知事の「よーく考えて国が判断されることと思う」という言い方も無用に安倍内閣を苛立たせるトーンだが、菅官房長官日本国政府のナンバー2として、東京を含めた日本全体に責任を持つ立場にある。官邸の記者会見で、大嫌いな東京新聞社会部の望月記者を意図的に指名しない点は、トランプ大統領がfake newsの一言でCNN やNYタイムズを排除する姿勢と同じだ。他の記者からの質問に対しても「おっしゃることは当たらないと思います」と木花の対応で、底意地の悪さ丸出しだ。トランプ大統領の気に入らない記者排除はひたすら子供っぽいが、苦労人の菅官房長官の場合は陰険、陰湿だ。

 

コロナでは個人のできることは、自分の体がウイルスを運ぶvehicle(乗り物)とならないよう極力出歩かない一方、eコマースを使って少し値の張るものを買ったり(100%麻の日本製ベッドリネンを二組買ったが、梅雨寒で出番はまだない)、外食機会が減ったので、すいている飲食店でいつもより単価の高い品を注文したりする(うな重の特上とか)くらいだ。だから政府に期待するのだ。

 

つんつるてんのアベノマスク以来、存在感を欠く安倍首相に代わってよくテレビで見るのは根性悪官房長官と不景気顔の西村経済再生大臣だ。出番のない厚生労働大臣にGoToで線香花火のように出てきた赤羽国土交通大臣。国の顔ぶれがこれでは、不安にしかなれない。

 

3月、感染者数が増え続ける中、彗星のように現れたのが吉村大阪府知事。この人の足跡で印象に残っているのは、大阪市長時代に慰安婦像設置を決めたサンフランシスコ市との姉妹都市関係を解消したことぐらいだった。就任間もない若い市長にしてみれば「韓国けしからん、圧力に屈したサンフランシスコ市もけしからん」と義憤の念にかられたのだろう。

 

この判断の外交上のインパクトは不明だが、韓国は反日を掲げる大統領の元でコロナ収束に成功し、大統領の政権基盤は強化された。韓国の対日政策は悪化するばかりだが、国と地方の役割分担という点では、外交は国防と並び国の専管事項であることに異論はないだろう。今日の日韓関係に責任を負っているのは安倍政権であり、大阪府知事大阪市長ではない。

 

大阪の感染者数が過去最高を更新し続けているが、安倍、菅、西村各氏よりも吉村知事の方が頼りになりそうな印象を与える。特措法の国と地方との権限と責任をめぐる矛盾は法律家である吉村知事の弁は説得力がある。わざわざ東京の官邸にやってきて、この法律の矛盾を整理してほしいと訴えた。知事とて余計な移動はしない方がいいし、法案を審議する国会は休会中であるが、動きの遅い中央政府のお尻をたたきに来たのだと解釈しよう。

 

ワクチン開発はゲームチャンジャ―と言い切り、大阪大学大阪市立大学による共同ワクチン開発を後押ししている。梅雨のコロナ禍の鬱陶しい気分の中、夢のある話だ。

 

政治家は使い捨てでいい、と言い切るところも清々しいし、安倍晋三小泉進次郎等々政治家二世、三世とは異なり、河内長野のサラリーマン家庭出身、府立生野高校から九州大学というところも親近感を呼ぶ。みんな公立だ。幼稚園から私立で大学までエスカレーター(安倍さんの成蹊大学)や中学受験経験者に、良くも悪くも日本国民の大半は公立の学校で教育を受けている現実はわかるまい。早稲田大学という私学に進んだ橋本元知事より授業料という点ではお金がかかっていない。

 

吉村知事にはワクチン開発を含むコロナ対策に成功して欲しい。来年の東京オリンピックの開催が危うい中、2025年大阪万博は人類がコロナに勝利した中で開催できたらいいな、と思う。大阪都構想はそれ以前に決着が着く。

 

メディアに持ち上げられている人物に夢を託し、勝手に尊敬する、という点では苦い思い出がある。前回の都知事選で大勝した小池都知事希望の党は、ご本人の「排除発言」で綿菓子のように萎んでしまった。が、小池さんの成功も失敗も結局メディアを通じてのイメージだ。ある人物の実像を知ってイメージが裏切られた例は、次のエントリーに記すことにする。                          (了)