パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

菅総理のスマホ料金引き下げ要求とマーケット感覚(2020.10.06作成)

「ちきりん」という仮名でブログやツイッターをやっている人がいる。面白い視点を提供してくれるのでフォローしている。もっとも、私がフォローしているツイッタラーは30人ほどだが。

 

このちきりんさん、「菅総理はマーケット感覚のある人」と評していた。少なくとも、自民党総裁選の頃は。

総務大臣肝いりのふるさと納税は、確かにマーケットに参加する人の行動を予期しての制度設計だ。が、デジタル庁や規制緩和と並んで菅総理の看板政策の一つであるスマホ料金引き下げは、むしろマーケット感覚の無さを露呈しているのではないかと思う。

 

誰に吹き込まれたのか、日本のスマホ料金が諸外国に比し割高だ、と確信しておられるようだ。息子の海外大学入学に伴い、現地でスマホ契約をしたが、日本より安いという実感は全くなかった。そもそも通信料金の比較は簡単ではない。速度、容量は様々だし、機種代金、セキュリティ、保険を含んだ料金とそうでない料金を比較しても意味がない。Compare an apple with an orange、リンゴとオレンジを比べても仕方がない。

 

料金そのものよりも、代理店が客のリテラシー不足に付け込んで契約するやり方に不満を覚えており、政府に介入して欲しいのはこの面だ。

 

2年縛りは機種代金を24か月分割で支払う場合は仕方ないとは思うが、機種を変更せずとも3年目以降も更に2年縛りを課し、中途解約の場合は解約手数料を要求するのは納得できなかった。ようやく、スマホについては3年目以降は手数料なしで何時でも解約できるようになった。

 

ソフトバンクルーターはそうはいかない。安い安いと電話攻勢をかけ、契約して2年経過すると料金はドンと上がる。ルーターは買い取ったものの、契約し続けないと粗大ごみに出すしかない。が、3年目からの料金は買い取ったルーター代分が差し引かれるわけではなく、1か月1000円ほど値上がりするのだ。

 

2年縛りのあった時代にも、どんどん途中で機種変更し、他社の上位機種に乗り換え、その機種代金も1円で、解約手数料を乗り換えた相手の会社に肩代わりしてもらう恩恵に浴し、結果的に高価な機種を安価な通信料金で謳歌した人もいたのだろう。そういう人には、携帯料金は高くはなかったはずだ。

 

その一方で、同じ会社と長く契約を続ける客が不利を被っていた。普通の契約関係なら、リピーター、固定客は上客のはずなのに。スマホの機能がどんどん進化し、2年で陳腐化することすら知らない者がDQNなのである。そういうカラクリを研究(?)しなかった人は、国や自治体の助成金や免税、減税制度を良く知らない人と同じということなのだろう。

 

2年契約のスマホと抱き合わせで、販売代理店が「月々500円ですよ。あると便利ですよ」と言って勧められたハウエーの小型タブレットの契約期間は3年だった。説明の過程や署名の段階で、契約期間の相違について一切説明はなく、2年経過しタブレットも契約終了だろうと思っていたら、いつまでも月々500+消費税を払わせられた。おまけで付けたタブレットだから、性能は悪く(なんせ撮影した写真をPCに送れないのだ)、ハウエーだから色々個人情報を中国当局に抜かれていたのかも知れない。

 

販売代理店の形態も不明確だ。直営店もあれば、3大キャリア本社とは異なる独自のサービスでひたすら店舗および販売員個人の契約獲得数を上げることに血眼になり、客に対し十分な情報開示をしていなかったケースもある。私は本社、代理店ともにソフトバンクのやり方を「トクトク詐欺」と呼んでいた。「お得ですよ」と言いながら、結局のところ、知らないうちにDQN客に不利益を押し付けていたからだ。

 

何度も総務省が介入して少しずつ改善してきたのかも知れないが、いまでも通信契約をするときは、「騙されていないか」、「500円の割引Aをつける代わりにこっそり700円の割引Bをはずしていないか」と心配である。全く使っていない月の通信料金に納得できない、と本社のカスタマーセンターに電話すると上席と相談して、「来月分を550円にします」となだめる。このようないやでも疑心暗鬼をかきたてる対応はおおいに問題にすべきだ。が、それは公正取引委員会消費者庁の出番であり、総理直轄の案件とも思えない。

 

数々の痛い思いを重ね、「もう騙されないぞ」という覚悟で契約に臨み始めたので、ようやく2年ほど前からは3大キャリアではない格安スマホながら性能は決して悪くはないスマホを、比較的安い料金で使いこなせるようになった。

 

アプリの何たるか、通信容量を食うのはどういう使い方かすら理解していなかったスマホデビュー時代のiPhone3など、ほとんど使いこなせていなかった。今ではルーターのある自宅はもちろん、新幹線、店舗のwifiサービスを使えば、通信容量が抑え気味の契約でも1か月乗り切れることを知った。

 

海外はwifi環境が日本より格段に良い、とかいう都市伝説にも懐疑的だ。アメリカでもヨーロッパでも、ホテルの外に出る時は、スタバやマクドナルドに入るか、店の近くでwifiを拾ってメールをチェックしたものだ。空港の入国審査を待つ時間、駅で電車を待つ間、通信が可能になりニュースをチェックした。コロナで悪名を上げたダイアモンド・プリンセス号船内の、短期wifi契約料金はおそろしく高かった。

 

スマホを扱う店舗について、客の属性を無視してより高い料金の契約、機種を勧めて売り上げを上げているという批判がある。売上が低いと本社から代理店契約を解除されるのだから、何としても契約を取り、売り上げを上げようとするのだろう。かんぽ生命と同じだ。若者の間ではスマホはほぼ100%行き渡り、子どもの数も少ない中、スマホデビューの高齢者は恰好のカモだ。ここは総務省消費者庁連携して客を救済する手立てを充実させてほしい。本社と代理店との関係は「優越的地位を利用して無理な契約条件を押し付けていないか」公正取引委員会の出番である。

 

その一方で、暇な高齢者が店舗で若い店員相手に、スマホの使い方や四方山話に延々とつき合わせている状況も何度か目撃した。スマホ本体は使い倒せないが、店舗を暇つぶしのために使い倒す高齢者による営業妨害もありそうだ。

 

政府が通信料金の引き下げを迫るのは資本主義の否定だ。「マーケット感覚」は皆無!電力会社は事実上地域独占で、最近いくつかの料金徴収会社が現れ、電気料金は1か月100200円程度安くなったかも知れないが、諸外国に比べて高いのは否定できない事実だ。東電が起こした3.11原発事故も料金に反映されている。こちらは政府が介入して引き下げを迫ってはいない。

 

スマホガラケーは電力、水道同様、経済社会のインフラとなっている。日本人の給料は長年伸び悩んでおり、今年はコロナで給料が減った人も多い中、菅総理は各家庭の大口固定費となった携帯料金に目をつけたのだろうか?政府の役割は企業間の公正な競争を確保し、不利な契約や、詐欺的な行為があった場合は、事後的にでも迅速に是正し、スマホ決済に金融機関側が十分な安全確保をしていない場合は指導することだ。どう考えても、スマホ料金についての菅総理の対応は合理的とは思えない。

 

ま、政権出発早々、さほど権限があるとも思えない日本学術会議の名誉職的な人事について物議をかもす必要もなさそうで、菅総理って本当に合理主義者なのかな?と思ってしまう。自身も筋を通し過ぎる傾向があるので、総理の気持ちもわからないでもない。推薦された候補者はすべて任命することこそ、「悪しき前例主義」と考えているのかもしれない。前任が後任を選び、総理がそのまま承認するというのも学会の「世襲」「究極のネポティズム」「仲良しクラブ」だ。なにがしかの信念を持って挑んでおられるのだと期待したいのだが。   (了)