パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

菅would be総理に期待すること(2020.09.10作成)

9月8日、自民党総裁選3候補者による立ち合い演説会があった。

菅候補に絞ってみると、これまでこのブログで菅官房長官の実績として評価してきた

    ふるさと納税

    洪水防止のためのダムの放流

    インバウンド促進

 

以外にも、「いいね」と思うことがあった。

    迎賓館を他の目的にも使えるようにした

    オンライン診療

    行政のデジタル化

    農産品の輸出促進

である。

 

赤坂の迎賓館は、国賓や公賓のための宿泊施設である。40年以上前、入省して最初に配属された課は欧亜局西欧第一課。所管の国のひとつであるベルギーの首相が公賓として来日し、滞在中迎賓館が宿舎となった。東京に住み始めて間もないお上りさんで、もちろん本物のベルサイユ宮殿など見たこともない自分には、東京にはすごい建物があるのだなあ、と思う一方、なんか鹿鳴館みたい、外国の建物のコピーを東京のど真ん中に作って日本文化への敬意はないのかしら、と内心漠然とした反発もあった。

 

菅候補の言う通り、迎賓館の年間使用日数はごく限られていた。国賓や公賓は天皇陛下への謁見の予定もあり、年間受け入れ数は限られている。建物の補修、清掃等の維持費は膨大、人員も割かねばならない。ベルサイユ宮殿は世界中から押し寄せる観光客の入館料で維持費も賄われているのだろう。英国のバッキンガム宮殿も毎年7月から10月にかけて一般客に開放している。入場料は3-4000円ほど。維持費の足しにはなるし、英国民、納税者の批判を抑える意図もあろう。

 

パリのセーヌ河に面したオーストラリア大使館は、本国政府からの経費削減という大号令に応じて、大きな建物の一部を国際機関である国際エネルギー機関(IEA)事務局に貸し出し賃料をかせぐようになった。東京にあるカナダ大使館も地下を会員制クラブに貸し出して収益を上げている。1990年代のアングロサクソン諸国に吹き荒れた行政改革の具体例だ。

 

菅候補はふるさと納税自治体に競争原理を導入した。国の施設も金食い虫のままであってはいけない、自ら稼げ、という思いならば、全く同感である。菅総理の下では、家賃や維持費ばかりかかる海外にある日本大使公邸について、費用対効果の精査が始まるかもしれない。「国家機密」だと言いながら、友達、親せきの高級ホテルになっているだけで、大使公邸としてしっかり役割を果たしているのか、いささか不安なノーテンキ大使もいた。河野太郎官房長官になれば、菅―河野ラインで政府の無駄を省く志は同じだろう。民主党政権時代の華々しい「事業仕分け」より、深く静かに進行するかもしれない「令和の行革」におおいに期待する。

 

行政のデジタル化も行革だ。ファックス、ハンコによる紙の無駄、時間の無駄を進めて欲しい。「公的施設も自助努力で維持費くらい稼げ」というアングロサクソン型行革に日本は何周も遅れているが、行政のデジタル化も同様だ。しがらみからか、一強の長期政権であった安倍総理も「はんこ議連」会長をIT担当大臣に据えなければならなかった。国谷裕子キャスターを降板させた菅長官のあの強権を、日本国の競争力強化のために使って欲しい。

 

オンライン診療もデジタル化に追いつけない定年のない老害医師たちからの抵抗が強そうだ。私がずっとお世話になっている近所のクリニックでは、デジタル化は進み、医療費のクレジットカード払いも可能で、先進的な医院だと思う。女性医師の説明は論理的で説得力があり、信頼している。それでも、いつもの薬は基本60日分しか処方してもらえない。徒歩で5分ほどだが、真夏にいつもの薬の処方箋をもらうためだけにクリニックに行く。症状を見るための血液検査はなく、血圧を測るだけだ。それからまた7-8分歩いて薬局に行き、薬を受け取るまで30分ほど待たされる。診療報酬との関係で日本医師会菅総理抵抗勢力になるかも知れない。

 

インバウンド集客や農産物の輸出は、日本の地方の数少ない強みをマネタイズする方策だ。

 

菅(多分)総理には、先日のエントリーに書いたネガティブな部分もあるが、なかなかの改革者だと思う。ぜひ抵抗勢力をつぶしていって欲しい。