エリザベス女王在位70年、英国はそんな立派な国か?
プラチナジュビリーの儀式は赤い服を着た衛兵が行進して華やかだ。
王室を離脱したヘンリー王子とメーガン妃もいるし、チャールズ皇太子の隣にはカミラがいて、話題には事欠かない。王国と言えば英国、女王といえばエリザベス。
いつも思うけど、英国は過大評価されており、日本は過少評価されている。皇室のあり方、女性の地位、ダイバーシティ、難民等々色々な問題を抱える日本だけど、相対的には悪い国ではない。誤送金、給付金詐欺、衆議院議長のセクハラ疑惑があっても、日本人に生まれて良かった、と思う。
多くの日本人が憧れる英国にもロシア・ウクライナ問題に似た構図がある。
6月1日朝の「日経モーニング+FT」(BSテレ東)で紹介されていたFT(ファイナンシャル・タイムズ紙)記者のコメントは、北アイルランドと英国の相変わらず微妙な関係だ。
英国の正式名称「グレートブリティン北アイルランド連合王国」の通り、北アイルランドは英国の一部である。アイルランドは別のEU加盟国である。テレ東が伝えるのは、英国のEU離脱後、英国からアイルランドへの通関、検査は北アイルランドで行ない、北アイルランドはEUの製品規格を維持するという合意「北アイルランド議定書」を、北アイルランドと英国との一体性を保つために英国が修正する、という点である。
「テロとの戦い」というと9.11以降、イスラム過激組織との戦いのイメージが定着したが、私が外交官人生を始めた頃は、英語圏のニュースでは対英武装組織IRA(アイルランド共和国軍)、フランス語圏のニュースではコルシカ民族解放戦線、スペイン語圏ではバスク地方独立運動が大きなニュースであった。
いずれもヨーロッパというコップの中の嵐、似た者同士、「兄弟」同士の争いに見えるが、当事者にしてみれば宗教(カトリック、プロテスタント、更に英国国教会)や言語、文化等は大いに異なり、「兄弟」などとひとくくりにされたくはないのだろう。
今のロシアによるウクライナ侵攻ニュースを聞いていると、英国、フランス、スペイン等の西ヨーロッパ諸国でも見られる、隣国間、あるいは同じ国の中の近くて遠い関係が浮き彫りにされる。ソ連邦時代はウクライナ地方であった。が、言語は微妙に異なり同じスラブ系言語ながらキエフ→キーフ、オデッサ→オデーサと発音は異なり、日本は読み方表記を法律改正した。カタカナで日本人が読めばどのみち原語からは離れるが、これは日本のウクライナ支援の象徴的な姿勢なのであろう。
スウエーデン(外務省の表記はスエーデンではないらしい)やフィンランドのNATO加盟のニュースの関連で、スウエーデンの中にロシアの飛び地があることを知った。ウクライナの東部地方にはロシア系住民が住み、親ロシア派もいる。ロシアの延長、とみなしたいのだろう。
地続きのヨーロッパは何世紀にもわたり宗教、言語、民族問題を抱えてきたのだ。
上記のFT記者のコメントは、英国本土に比べ、北アイルランドは相変わらず所得水準が低いことを指摘していた。多くのアイルランド人が移民として米国に渡った背景には、英国のアイルランド差別の中、悲惨な飢饉に見舞われたことがある。
1980-90年代、「日本と韓国は仲が悪いよね、日本は在日韓国人、朝鮮人を差別しているんだろう」と英国の外交官に知ったかぶりで言われた時、「でもあなたの国で差別されているアイルランド系の人たちとの関係とは違ってテロ殺傷事件は起きてませんよ」と言い返そうとして、口を閉じた。
組織的なテロではなかったが、差別問題を告発した「金嬉老(きんきろう)事件」のような立てこもり事件はあった。金嬉老事件 - Wikipedia
隣国であるがゆえに、宗教、言語、文化の違い、何よりも貧富の差が日常的にはっきり感じられる。今の米国は日本に比べて経済が好調だが、多くの日本人にとり米国は遠い国であり、すぐそばに米国人がいる生活ではない。戦後から今日に至る沖縄は別として、敗戦国に占領軍として米国人が闊歩していた時代とは異なり、うらやましがる機会が少ない。が、在日韓国人、朝鮮人は身近にいるし、都会のコンビニでは中国人がレジを打っている。
スイスの知恵
マネロン大国なのに、アルプスの少女ハイジの清貧なイメージ、永世中立国で平和を愛する国というイメージ戦略に成功した国で、私はあまり好きになれなかったが学ぶ点はある。
国は連邦制でドイツ語、フランス語、イタリア語、極少数だがロマンシュ語の4言語をそれぞれ話す人がいる。最初の任国ベルギーでは、豊かなオランダ語住民に対し、フランス語系の人が反発して政権が倒れることがしばしばであったことと対照的であった。スイスの知恵は、経済的にも豊かで人口規模が最大のドイツ語系が控え目にしているからである。強いから低姿勢、でバランスが保たれる。
ウクライナ内でロシア系住民が虐げられている、という言い分もあるのだろう。多数派は「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」を心がけるのが多言語、他民族国家の知恵なのだ。
スイスと比べて、英国の北アイルランドに対する姿勢はどうなのだろう。色々な融和のための施策を実行してきたのかも知れない。米国も黒人に対し、色々配慮してきた、と言うのかも知れない。日本が懸命に従軍慰安婦や強制連行問題に取り組んできた、と言いたくなるのと同様に。
日本も様々な制約、国内の反発に配慮しながら、韓国との友好に努めてきた。前ムンジェイン政権以来、戦後最悪とされる日韓関係について、少なくとも英国人にあれこれ言われる筋合いはない。世界の多くの国が、隣国や民族的言語的に近い隣人との緊張感のある微妙な関係に腐心している。完全に成功している国は少ない。北アイルランドの人は、プラチナジュビリーをどのような思いで迎えているのだろう。
(以上)