パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

大坂なおみ、セリーナ・ウイリアムズ(2018.09.10作成)

2018年9月9日の日曜の朝、素敵なニュースが飛び込んできた。母親が日本人の大阪生まれ、おじいさんが北海道に住む大坂選手がテニス全米オープンで優勝したのだ。

 

先週、関西は強い台風で被害甚大、そして北海道は震度7地震に見舞われた。暗いニュースの中で、近畿と北海道に何等かの繋がりのある選手の優勝は嬉しいことだ。

 

3歳からずっと米国に住み、日本語はかわいらしい片言、身長180センチ、褐色の肌。昨年、英国籍のカズオ・イシグロ氏が英語で書いた小説でノーベル文学賞を受賞した時、「ルーツが外国にあると日本国籍でも犯罪者ならガイジン、外国籍でも栄誉を得れば日本人」とする傾向について、批判的な見方があった。

 

大坂選手は日本国籍、スポンサーは日清食品。錦織選手のユニクロのロゴがついたテニスウエアも嬉しいが、スリムで筋肉質の大坂選手がまとう黒のウエアについた赤い日清食品のロゴも印象的。ユニクロジョコビッチ選手のスポンサーでもあるが、錦織選手が14連敗する天敵No1なので、ちょっと複雑だ。錦織選手も大坂選手もヨネックスのラケットを使っている。日本以外の国で製造されているのかもしれないが、日本メーカーというだけで嬉しくなる。多分、アメリカ人もフランス人も中国人も自国メーカーや製品について同じように感じる人が多いのだろう。貿易戦争が起こるゆえんだ。

 

決勝でセリーナ・ウイリアムズと対戦するなんて、本人も言っていたがすごいことだ。今回の決勝は、主審に対する批判が集まった後味の悪いものだったが、セリーナの主審への言い分や、試合後の大坂選手への対応、表彰式で観客の主審に対するブーイング制止を求める発言はさすが「元女王」の貫禄。

 

テニスのトップ選手は白人が多い中で、黒人のウイリアムズ姉妹は嫌な思いもしてきただろうと思う。主審に「私は人生で一度もずるいことをしていない」と懸命に抗議していたが、その昔「悪ガキ」と言われた米国人選手マッケンローもよく主審に暴言を吐いていた。どの選手も勝負、賞金、名誉をかけて戦っている。

 

セリーナ選手は、主審の自分への過剰なペナルティは女性蔑視だと主張しているようだ。米国紙の見出しにはsexistという文字も踊っている。「白人で男性である自分が、黒人で、しかも女性に暴言を吐かれる言われるいわれはない」と主審が心の奥底で思っていない、とは誰が断言できようか?

 

私はたまたま黄色人種で女性に生まれた。白人や男性という歴史上優越地位にい続けてきた人々の中で行動するとき、この人は人種差別主義者かもしれない、女性差別主義者かもしれない、という恐怖心が常にどこかにある。トランプ現象の底流はなんとなくわかる。セリーナ選手も感じてきたのだろう。若い大坂選手は天真爛漫で、セリーナより16歳も年下だから、時代は少し好転しているのかもしれない。

 

女子テニスの賞金額が男子のそれと同じようになるまで、大坂選手には頑張って欲しい。確かに、女子は2セット取れば勝ち。錦織選手が時々フルセットで5時間に及ぶ死闘を繰り広げるのを知っているだけに、男子の3セットは相当ハードルが高いものだろうと想像する。賞金を同額にするなら、女子も3セット先取になり、スポンサーの数も同じ数にならないと無理だろうか。      (了)