パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

安倍首相辞任(2020.08.30作成)

17歳の頃から辛い難病を抱えておられたそうだ。

安倍晋太郎外務大臣の秘書官として外務省の大臣室で勤務されていた時、何度か外遊にも末席で同行したことがある。その頃も、だましだまし体調管理をされていたわけだ。

 

花粉症になって、初めて他人の病気にも同情できるようになった。中肉中背で、体力もないがまあまあ健康である。が、20年くらい前、息子を生んだ後、春の桜の季節が猛烈に辛くなった。私が不摂生をしたわけではない。花粉症は体質変化に伴い突如勃発する。くしゃみ、鼻水も辛いが、目の痒さは本当に「目玉ごと取り出して洗いたい」がぴったり。3.11は東日本大震災の日だが、まさに3月上中旬が最悪で、あの日は朝から何度も目を洗っていた。こんな辛いアレルギーだが、それでも花粉の時期が過ぎると普通の生活ができる。安倍さんの潰瘍性大腸炎は、症状の波はあっても今のところ完治は難しいという。難病を抱えながら重責を担ってこられたことには敬意を表する。

 

森友、加計、桜を見る会、公文書改ざん等々、うやむやになった事件が多い一方、吉田茂(単独講和で戦後の国の形を決め、復興の道筋をつけた)、池田勇人(所得倍増)、佐藤栄作沖縄返還)、中曽根康弘国鉄電電公社民営化)、小泉純一郎郵政民営化拉致被害者5人の帰国)のようなレガシーはない。憲法改正は果たせなかった。

 

逆説的だが、安倍さんもトランプ大統領のように結構な数の人々の本音を引き出す機会を与えたのは功績かも知れない。「黒人大統領(オバマさん)の次は女性大統領(ヒラリー)?いい加減にしてくれ!」という、表立っては口にしにくい本音をトランプさんは掬い上げた。安倍さんの場合は、「中国、韓国の言いなりにはならんぞ。天皇は男に決まっている。自衛隊は良くやっているじゃないか」という立場の体現である。櫻井よしこ稲田朋美高市早苗杉田水脈氏たちもこの一派の女性バージョンだ。嫌韓、嫌中をおおっぴらに表明する人が増えたのも安倍首相の存在だ。

 

日米関係を強固にし、米国大統領と個人的に親密な関係を築いた首相には、中曽根さんや小泉さんという前例がある。プーチン大統領と何度会談しても北方領土は戻らないし、安倍政権下で拉致被害者は戻らず、被害者親族は高齢のため何人も他界され、韓国との関係は最悪だ。ひとつ私が安倍さんの外交で評価するのは、民間の対外活動への後押しだった。

 

安倍晋太郎外務大臣時代、日本の貿易黒字が欧米から批判されていた。バブルを経て、少子高齢化、デフレ、低成長に苦しみ、中国に世界第二の経済大国の地位を奪われた時の晋三首相のスローガンは「日本を取り戻す」だった。外国訪問時には、日本の経済人に同行してもらい、商談にも日本の首相の後押しがあるというメッセージを相手国政府に送った。晋太郎さん時代にはまだ、ドゴール仏大統領が池田勇人首相を「トランジスターラジオのセールスマン」と評したという都市伝説が広く伝えられており、首相が民間の話し合いに関与するのはある種タブーであった。この時代を外務大臣秘書官として口惜しく見ていたのだと思う。首相になって、思うところを実現されたのだろう。私も同じ時代を生きて、うれしく思った。

 

次の日本国首相は誰だろう。本音は隠しても、変わることはない。もちろん、米国にもトランプさんを支持しつつも「メキシコの不法移民は犯罪者、気候変動?So what?」等々の発言・考えは行き過ぎと思う人もいるだろう。

安倍さんシンパにも

天皇は男系が望ましいけど、実際のところ若い皇族男子は悠仁さんしかいないし、お妃選びは雅子様の時よりも難しい。結婚されても男の子が生まれる保証はない。側室など考えられないし、相当前に皇室を離脱された男子にもヤバい人がいるから、女系天皇で」

日韓条約軍事独裁政権とどさくさに紛れて結んだものだ。相手の主張にも多少の配慮を」

という立場の人もいるかもしれない。

 

全体として人類は良い方向に進んできた。豊かになったし、先進国では女性の地位も高まったが、21世紀のこの時期が良い時代であるかどうかはわからない。おかれた立場によって評価も異なるだろう。ポスト安倍には、課題が山積みだ。                                   (了)