パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

元外交官テレビコメンテーターは良好な外交関係は望んでいない?(2019.08.31作成)

日韓関係は悪化するばかり。外交がうまくいかないと、元外交官の活躍の場が増える

 

ゴマ塩頭で長髪の武藤元駐韓大使は連日テレビで引っ張りだこ。講演依頼も多いのだろう。韓国のムンジェイン政権を「サヨク的」と呼び、全般に韓国に厳しい。まあ、大使として韓国で嫌な思いをしたのだろうが、日本人に対しても「サヨク」というレッテル貼りをしそうな勢い。

 

一応面識のあるテレビに露出している方々を並べてみる。

岡本行夫――一橋大出身。随分前に現役課長時代に退職した人で、橋本内閣の総理補佐官もやっていた。日米安保や沖縄での出番が多い。日曜の「サンデーモーニング」(TBS)でお見かけする。   (*)2020年4月に亡くなられた。合掌。

 

薮中三十二――阪大出身。ノンキャリの試験合格後、キャリアの試験を受け直したそうだ。外務次官は直線の経歴の人が多いが、この方の外務省入省直後の経歴は割と苦労人。がその後は上の引きもあったのだろう、とんとん拍子だが得意分野は不明。岡本さん同様、サンデーモーニングに出演だが、とにかく司会の関口宏はじめ、出演者も視聴者も相当な高齢だ。

 

武藤正敏――横浜国立大出身。上記の通り元駐韓大使。韓国語研修のキャリア組。口性(くちさが)のない外務省の先輩(こういう人は沢山いる)の一人は、「韓国語研修をさせても将来駐韓大使が務まるほど優秀とは限らないから、人事当局には頭が痛い」と何期目かに一人、キャリア外交官を韓国語研修をさせるリスクを述べていた。確かに、駐韓大使は他の語学研修をした人材の中の、最も優秀な人の中から選出されてきた。長嶺現駐韓大使は確か英語研修。武藤さんは局長経験もないが、何度かの韓国駐在を経て、多くのアジア太平洋局長や外務審議官経験者を差し置いて最後は晴れて駐韓大使に。日韓関係はこの方の存命中、必ず問題が起こり続けるからお座敷に呼ばれること確実。ラッキー!

 

宮家邦彦――東大出身。この人は私と外務省の同期だ。アラビア語研修で安全保障課長、米国、中国、イラク駐在経験があるから、大体の問題に一言言えるので守備範囲が広い。テレビ局にとってコメンテーターとしての使い勝手はいいのだろう。

 

山田文比古――フランス語研修の後輩だ。フランスの「黄色いベスト運動」や25歳年上の高校の先生と結婚したマクロン大統領誕生の際にみかけた。フランスは日本にとって外交上の死活的利害関係は薄弱。米国や中国韓国をはじめとする近隣アジア諸国と違うので、出番は少ない。

 

外務省出身ではないが、日本の輸出管理において、韓国をホワイト国から普通の国にする決定に関連して、細川昌彦通産省(現経済産業省)貿易管理課長がよくテレビに出ていた。中部大学特任教授だそう。今の私の同僚だったのかあ。私は東京在住のまま限られた講義数を担当する形にしてほしいと大学側に依頼したが、細川さん、名古屋方面に常駐なのかな?

 

8月26日、厚生労働省の若手チームが自らの働き方改革について大臣に提言した。役人生活は「人生の墓場」とまで言い切っているようだ。国会対応の非効率は半世紀の間変わっていない一方、かつての役人の甘い汁であった天下りは厳しくなり、再就職もままならない。上記で紹介した元役人は、一応大学の教官や研究所の研究員の肩書を得て、テレビに露出している。現役時代とは違い発言に重みはなく、責任は皆無。再就職の勝ち組なんだろう。

 

私は現役時代から他人の人事に関心はなく、今も同期入省者の現在の処遇は、たまに出席する同期会で「へえ、そうなの」と知るだけだ。この夏も人事異動があったのだろう。全権特命大使を終えて無職になると、それまで1万円単位で考えていた値段が、千円単位で気になる、と嘆いていた人もいるそうだ。

 

運よく退職後、テレビコメンテーターで生計を立てている人にとって、外交関係がうまくいかず、問題が多いほど自分の出番が増え、支払われる出演料や原稿料が増えることになる。「良好な外交関係」が続くと自分の収入が減る。なんとも悲しい現実だ。(了)