パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

大坂なおみ、セリーナ・ウイリアムズ(2018.09.10作成)

2018年9月9日の日曜の朝、素敵なニュースが飛び込んできた。母親が日本人の大阪生まれ、おじいさんが北海道に住む大坂選手がテニス全米オープンで優勝したのだ。

 

先週、関西は強い台風で被害甚大、そして北海道は震度7地震に見舞われた。暗いニュースの中で、近畿と北海道に何等かの繋がりのある選手の優勝は嬉しいことだ。

 

3歳からずっと米国に住み、日本語はかわいらしい片言、身長180センチ、褐色の肌。昨年、英国籍のカズオ・イシグロ氏が英語で書いた小説でノーベル文学賞を受賞した時、「ルーツが外国にあると日本国籍でも犯罪者ならガイジン、外国籍でも栄誉を得れば日本人」とする傾向について、批判的な見方があった。

 

大坂選手は日本国籍、スポンサーは日清食品。錦織選手のユニクロのロゴがついたテニスウエアも嬉しいが、スリムで筋肉質の大坂選手がまとう黒のウエアについた赤い日清食品のロゴも印象的。ユニクロジョコビッチ選手のスポンサーでもあるが、錦織選手が14連敗する天敵No1なので、ちょっと複雑だ。錦織選手も大坂選手もヨネックスのラケットを使っている。日本以外の国で製造されているのかもしれないが、日本メーカーというだけで嬉しくなる。多分、アメリカ人もフランス人も中国人も自国メーカーや製品について同じように感じる人が多いのだろう。貿易戦争が起こるゆえんだ。

 

決勝でセリーナ・ウイリアムズと対戦するなんて、本人も言っていたがすごいことだ。今回の決勝は、主審に対する批判が集まった後味の悪いものだったが、セリーナの主審への言い分や、試合後の大坂選手への対応、表彰式で観客の主審に対するブーイング制止を求める発言はさすが「元女王」の貫禄。

 

テニスのトップ選手は白人が多い中で、黒人のウイリアムズ姉妹は嫌な思いもしてきただろうと思う。主審に「私は人生で一度もずるいことをしていない」と懸命に抗議していたが、その昔「悪ガキ」と言われた米国人選手マッケンローもよく主審に暴言を吐いていた。どの選手も勝負、賞金、名誉をかけて戦っている。

 

セリーナ選手は、主審の自分への過剰なペナルティは女性蔑視だと主張しているようだ。米国紙の見出しにはsexistという文字も踊っている。「白人で男性である自分が、黒人で、しかも女性に暴言を吐かれる言われるいわれはない」と主審が心の奥底で思っていない、とは誰が断言できようか?

 

私はたまたま黄色人種で女性に生まれた。白人や男性という歴史上優越地位にい続けてきた人々の中で行動するとき、この人は人種差別主義者かもしれない、女性差別主義者かもしれない、という恐怖心が常にどこかにある。トランプ現象の底流はなんとなくわかる。セリーナ選手も感じてきたのだろう。若い大坂選手は天真爛漫で、セリーナより16歳も年下だから、時代は少し好転しているのかもしれない。

 

女子テニスの賞金額が男子のそれと同じようになるまで、大坂選手には頑張って欲しい。確かに、女子は2セット取れば勝ち。錦織選手が時々フルセットで5時間に及ぶ死闘を繰り広げるのを知っているだけに、男子の3セットは相当ハードルが高いものだろうと想像する。賞金を同額にするなら、女子も3セット先取になり、スポンサーの数も同じ数にならないと無理だろうか。      (了)

 

セブンイレブンの24時間営業(2019.02.21作成)

大阪のセブンイレブンのオーナーが、配偶者の他界後、人手不足にたまりかね、24時間営業をやめることにしたら、本社から契約違反で約1700万円もの違約金を求められたという。

 

2時間刻みの宅配が立ち行かなくなったのと同様、もう日本はそんなに便利さを追求しなくてもいいのではないかと思う。24時間営業をやめると言っても、午前6時から翌朝1時までの19時間営業!「セブンイレブン」なんだから、朝7時から午後11時までで名実が一致する。

 

深夜に働く人、早朝出勤する人のためには24時間営業はありがたい。海外、特にドイツやフランスでの滞在経験があると、日本の便利さが懐かしい。おまけにコンビニの商品は本当にきれいに並んでいるし。ヨーロッパで深夜営業をしている食料品店は、汚らしかったし、アメリカのセブンイレブンも、床の掃除が行き届かず、商品も不潔な感じがした。

 

日本のコンビニの素晴らしさは、フランチャイズ契約をしている店舗オーナーとアルバイト店員の苦労の賜物だ。オーナーも大変だろうが、売り上げ現金が合わないと、バイトに弁償させるケースもあるという。100%キャッシュレスになれば、こういう問題も生じないが、税金の支払いや1円切手の購入もコンビニでできるので、現金支払いはなくなりそうもない。唐揚げやコロッケを揚げる一方、スマホに取り込んだデータをプリントアウトできる機械が使えない客の支援もさせられる。

 

折から飲食店でのバイトテロが相次いだ。コンビニおでんも飲食物だ。おバカなことをしてSNSに投稿するのは、確かに愚かだが、多くのアルバイト店員は時給800-900円くらいで、あらゆることをやらされている。コンビニの親会社も、宅配会社も、アルバイト店員や配達ドライバーがいて成り立つ事業形態だということにそろそろ気づくべきだ。

 

今日、書店でデービッド・アトキンソンの「新・生産性立国論」をざっと目を通したから、同氏の「日本でバカなのは労働者ではなく、経営者」という毎度の主張に合点がいった。確かにバカッターはいるのだろう。が、多くのコンビニ店員や宅配ドライバーは、あれだけの仕事を間違いなく時間に追われながらこなしているのだ。安い時給でこき使い、日本人では対応できないと移民労働者、というのでは経営者として智恵がなさすぎる。フランス人店員なら、客を延々と待たせても自分のやりたいことを優先する。それで、黄色いベスト運動で大統領に譲歩させる。これからは日本の末端の労働者が少々トンチンカンな対応をしても、フランスのことを思い出して怒らないようにしよう。

 

24時間営業を見直し、立地やオーナー及び店員の事情を汲んだ事業形態にならないと、コンビニも存続できない。深夜に営業していると、強盗のリスクもある。

 

地方都市で夜コンビニの灯を見つけ、「開いてて良かった」と心底思ったことがある。が、我々も生活スタイルを見直した方が良い。深夜や早朝に仕事する人は、コンビニの開いている時間に買っておく工夫も必要だろう

 

コンビニ本社は少しでも売り上げを増やしたいがために、営業時間が長い方を望むらしい。生産性など二の次。アマゾンの無人店舗の方が、生産性は高そうだ。 (了)

 

外食は安いものだと思いこんだ私たち(2019.02.23作成)

前回、セブンイレブンの24時間営業についてのブログでも言及したデビット・アトキンソン氏であるが、またまたに外食が安すぎる日本について書いておられる。(東洋経済オンライン「日本人が大好きな『安すぎる』外食が国を滅ぼす」)

 

ビックマック指数によると日本は世界30位でポルトガルやタイより安いとのことだ。別にビックマックに限らず、スタバのフラペチーノも香港やソウルより日本の方が安いと感じた。バブル時代、日本の物価が高い、高いと言われていたが、今昔の感がある。為替レートも影響しているのだ。アベノミクス、黒田バズーカは間違いなく「円安」を歓迎している。

 

新幹線の車内販売をやめるというニュースがある。東海道新幹線の【新幹線弁当】は。1000円だか1080円だかで、色々なおかずに、2-3種類のおにぎりが入っている。安いし結構おいしい。世界1-2の物価高を誇るスイスなら、サンドイッチ一つでも1000円くらいする。バゲットを開き、バターを塗り、ハムとチーズを挟んだだけ。

 

日本でなら、1000円以下のスーパーの寿司でもおいしい。フランスの有名高級惣菜店エディアールで干からびた寿司が2-3000円もした。

 

すべて人件費を抑えることで成り立つ日本の安い外食、弁当類だ。日本の経営者が愚かだと繰り返すアトキンソン氏は、ここでも経営者の歪みだと指摘する。

 

絡みついたヘッドフォンの線をいかに早く元通りにして次の利用者に提供できるかについて天才的な才能の女性がテレビで紹介されていた。100種類もあるパン屋で、価格表を見なくても高速レジ打ちができる店員さん(女性)。短い制限時間の中でたくさんの料理を作ることができるカジエモン(男性)。彼らの特技は、タイピストや駅の切符きりの仕事がなくなっていったように、消えてしまう運命かもしれない。彼らを安い給料で必死に働かせるより、彼らの能力が発揮でき、なおかつ給料が高い別の分野を開拓するのが経営者だろ、とアトキンソン氏は言いたいのだろう。

 

料理がいくつ早く作れるかより、美味しいものをもったいぶって提供して客を待たせる方が高い値付けができるレストランもあるのだから。

 

この記事を読んでいつもは1000円程度ですます昼食が、今日は1650円になった。十割そばを使った天ざる。まあ、おいしかった。天ぷら油の換気も行き届き、店の雰囲気も良かった。モノはできるだけ買わないか再利用するか、に腐心している自分にできることは、お金のない若者が500円の弁当を探している時に、同じように安いものを追いかけないことだ。

 

中部大学に講義に行くとき、学生は駅からスクールバスに乗って丘の上のキャンパスに向かう。学生のお小遣いよりたくさん給与を支給されているのだからタクシーを使おう。もっとも大学から支給される交通費では、東京から愛知県春日井市まで通うと足が出るのだが、もういい。自分も楽だし、安さの追求で国が滅んでは元も子もない。貯めこんで振り込め詐欺に遭うより、まず使おう。       (了)

 

カルロス・ゴーン逮捕(2018.12.03作成)

日産の会長だったゴーンさんが逮捕されて2週間。

 

2016年秋、友人の息子さんの結婚式に参加するためフランスに行った。フランス訪問がこれが最後ならもう一度行ってみたい、と思っていたドルドーニュ地方を回ることにした。鉄道の便が悪い地方だ。

 

そこで借りた車が日産インフィニティ。事前予約の際、「アウディまたは同等の車」となっていた。恥ずかしながらインフィニティがどこのメーカーの車か知らなかった。が、運転してみてその快適さに感動した。帰国後、5000キロも走っていないホンダのNoneを売り、インフィニティではないが、同等の車に買い替えた。軽自動車でいいじゃないか、そんなに運転が好きでもないし、ホンダが本腰を入れて発表した可愛い軽自動車、何より自動車税が安いし、駐車しやすいし、と思っていた。軽なのに結構高かった。

 

それでも決意して買い替えた車は、値段は2倍以上したが、満足度は何倍も高くなった。高速道路を走るとき、加速が違う。鋼鉄に守られているという安心感もある。重い車の方が本当に安全なのかどうかはわからないが、気分が違うのだ。運転が下手な自分でも違いが判る。

 

フランスで運転した日産車には、そんな思い出がある。

 

2017年の秋学期の講義では、その年の1月の日経新聞私の履歴書」がゴーンさんだったので。グローバル人材という視点から、学生には読むように指示した。学生には当時の新聞が手元になくても、図書館で新聞の縮刷版の記事を探す経験をしてほしいという意味もあったが、主たる目的は、レバノン人で、ブラジルで育ち、フランスで勉強し、就職し、そして日本企業の再生に携わった、というこの上ないグローバルな人材の経験談を学生に知って欲しかったからだ。

 

報道で知るゴーンさんの蓄財欲は、本当がどうかわからない。個人的には「推定無罪」を貫く方が、人権を重んじる制度だと思う。が、ルノーの収益の半分は日産の貢献、ルノーの43%の日産持ち株は議決権があるのに、日産のルノーに対する15%には議決権がなく対等ではないと聞くと、ニッポンバイアスの視点=ルノー、その背後のフランス政府が悪い、日産の怒りは当然、という見方になってしまう。。

 

ルノー出身のフランス人役員は1か月も休みを取るのに、日本人の役員より報酬が多い、という報道もある。何十年も前からある「日本人が休みも取らず働いているのに」という恨み節に同情するとともに、自分たちも休めるようにすればいいのに、と働き方改革を自ら勝ち取ろうとしない同胞に若干ふがいなさも感じる。

 

それはともかく、ゴーンさんは最初の妻とは離婚していたと聞いて合点がいった。最初の妻との4人の子どもは、日本にいた頃はアメリカン・スクール・イン・ジャパンに通っていたという噂を聞いたことがある。その妻と別れ、ベルサイユ宮殿で結婚式を挙げた再婚相手は、ご多分に漏れずかなり年下らしい。「アラブの春」の引き金になったチュニジアのベン=アリ大統領の失脚前の悪評は、もっぱら若い再婚相手とその一族郎党の悪行に起因していた。糟糠の妻と別れ、若い女性と再婚し晩節を汚すのは、古今東西既視感がある。自身の権勢欲の高まりにおねだり妻が加わり、公私混同に拍車がかかる。ゴーンさんもただのオッサンだった、ということなのだろう。 

 

ブログ開設(当時は別のサイト)の第一号エントリーは、再婚若妻とその一族のハチャメチャに翻弄されたチュニジア大統領の国外逃亡劇についてだった。こちらをどうぞ。

 

カルタゴの女摂政―チュニジアの政変について(2011.01.25作成) - パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

  (了)

新元号、美智子皇后、ご成婚60年(2019.04.10作成)

4月1日、新元号は「令和」と発表された。

賛否両論、色々な意見が出るが、我々には選択肢はなく、5月1日から使い始めればそのうち慣れるのだろう。

 

元号発表の前日、皇后陛下の特集番組があった。20歳で新聞に自分の意見を投稿される女子大生は、進歩的で自我の確立した人だったのだろう。投稿には母校の聖心女子大からの推薦、後押しがあったのかも知れない。天皇陛下に出会われた軽井沢の頃の写真は、本当におきれいだ。結婚式のパレードから3人のお子様の母となられた頃の写真も、ほっそりとして女優さんのようだ。

 

民放で皇后陛下のファッションを取り上げていた。ダイアナ妃のファッションが素敵と、雑誌で特集写真があると熱心に読んだものだが、美智子皇太子妃殿下のファッションも素晴らしい。ダイアナ妃より4半世紀ほど以前の写真、そして、1980年代の英国よりずっと貧しい、1960年代はじめの日本におけるお姿だ。

 

実は、年を重ねられてからの皇后陛下の洋装は、異様に肩が張っていたり、ケープが不自然であまり感心しなかった。和装の方は素晴らしい。ベージュや薄紫の訪問着など本当にお似合いで、自分もあんなに上品に着物を着れたらなあ、帯もよくマッチしているなあ、と嬉しく眺めたものだ。

 

今日4月10日でご成婚60周年をお迎えになった。皇室に嫁がれてからの皇后陛下の60年は間違いなく苦労の連続だったのだろう。流産も経験されたが、何といってもご成婚後早い段階で男子の第一子を授かったことは、救いだったに違いない。離婚前後のダイアナ妃のインタビューでは、まず男子が生まれたことでほっとしたと発言している。それは1980年代初めのことで、女王もいる王家においてすらこの安堵だから、1960年代はじめ、ついその10年あまり前は天皇は神様であったこの国で、歴史上初めての民間からの皇太子妃が男児を出産された時の安堵はいかほどのものであろうか。

 

秋篠宮は宝塚の加茂さくら天皇陛下との子だという「都市伝説」は、関西でも耳にしたし、上京してもまことしやかに言う人がいた。2-3年前にも東京でそんなことを言っている人がいたから、この都市伝説は全国区版なのだろう。秋篠宮の目鼻立ちは、皇后陛下にとてもよく似ておられると思う。

 

昨年12月、天皇陛下はご自身の誕生日の際「自らも国民の一人であった皇后」の「皇室と国民の双方への献身」について、声を詰まらせながら労い、感謝されている。日清製粉の社長さんのお嬢さんで、立派な学歴があり、頭もよく、テニスも音楽もお上手であの美貌の女性にとり、嫁ぎ先に困ることはなかったはずだ。が、あの時代のご両親にとっては「未来の天皇」の求婚に、娘にノーと言わせる選択肢はなかったのであろう。

 

皇室とその取り巻き連中の「粉屋の娘」「手袋の長さがどうの」「車の窓を開けて生まれたばかりの未来の天皇を風にさらした」等々、吉良上野介のようにいけずな、家柄だけ皇室に繋がっている人たちのハラスメントも後世に伝わっている。週刊誌の新皇后に対する報道もひどかった。「声を失う」なんて、どれほどの気苦労だったのだろうか。

 

今は宮家とは何の関係もない一般大衆が、小室圭母息子をバッシングしている。ご結婚となれば1億円が支給される、これは私たちの税金だから黙ってはおれない?赤ちゃんも含めた人口1億2千万人で割り算をすると一人頭1円にもならない「税金」だ。とはいえ、(チクり元婚約者の弁を鵜呑みにすれば)借りたお金を踏み倒す母親も、その言い分をそのまま信じる息子もいかがなものか、とは思う。

 

正田美智子様のご両親は、自身の娘にお会いになる機会は、ご成婚後ほとんどないほど自制されていたそうだ。小室圭さんの母親は一切皇室には出入りしないと誓う、1億円は辞退する、そして圭さんは異例の速さで米国弁護士資格を取得して、弁護士となり眞子さまと米国で暮らす。それでこそ「海の王子」だ。そうでもしないと、どんな文書を出そうが、400万円ではなく10倍の4000万円を「返済」しようが、口さがない人たちは収まらない。

 

英国、スペイン、ノルウエーの王室には、有色人種の血が入っている花嫁の父が相当な問題人物であるとか、未婚の母が子連れで王家に嫁ぐとか色々ある。生まれながらの王族メンバー自身が物議をかもしている例も多い。日本の皇室も例外でない。寛仁殿下とか。

 

退位を前にし、ご成婚60年を迎えられた天皇皇后両陛下にとり、まだまだご家庭内の心労は続きそうだが、公務における責務からは解放され、お二人で仲良く余生をともに過ごされることを切に祈っている。         (了)

機密費の怪(2016.06.16作成)

鈴木宗男佐藤優両氏が対談している「反省 私たちはなぜ失敗したのか」という本の抜粋が、どなたかのプログに引用され、ネット上に出回っている。大変不正確で納税者の方の誤解を招くので以下に正確なところを紹介することとする。

 

佐藤氏の発言

「難(ママ)に使ってもいい  つかみ金は、渡し切りの交際費です。パーティーをやったり、 情報を取る為の金も渡しているけど、使わないで溜め込む。」

インテリジェンスの権威がこんな不正確な発言をしてもいいのだろうか?

 外交官が情報を得るためには、新聞雑誌等の公開情報はもちろん、これはという情報を取れそうな相手と積極的に知り合うことも必要である。多数の人が集まるパーティーで知人から紹介されることもあれば、自分から未知の相手に電話し、会合をセットすることもある。情報を売りたければ先方からアプローチしてくることもある。が、「情報を取る為の金」は、外交官が私用のために貯めることはできない仕組みになっている。大使館内のチェックもあるし、本省への会計報告もあるし、第三者である会計検査院による調査も定期的にある。

 

「何につかってもいいつかみ金は渡し切りの交際費です」「情報を取る為の金も渡しているけど、使わないで溜め込む。 それで、日本で家や別荘を 買っているんです。」という佐藤発言が正しければ、私は公金を不正流用していることになり、鈴木宗男氏同様、犯罪者として収監される類の罪である。公務員は法的手段に訴えないとタカをくくっているのか、随分危ない発言だ。大使館に送金される情報収集ための金銭が、外交官個人が貯め込むことは、相当難しい。もちろんどのようなチェック体制を整備しても、確信犯が制度の盲点を突いてくることはある。

 

情報収集の具体的方法をお知らせしよう。

じっくり相手から情報を得るには、少なくとも相手の時間を2時間程度は拘束することができるよう食事に招待することがある。

まず、これはと思った相手と会食をしたい場合、書記官は決裁書をつくる。「日時」、「相手(含む肩書き)」、「場所」、「目的」、「概算費用」、それから事後的だが会食の成果について「報告の有無」を明記して、大使館内で決済を取る。会食の成果について報告する欄が増えたのは、成果の上がらない会食はするな、という昨今の事情を反映してのものだろう。「何に使ってもいい」はずがない。

会食を希望する書記官は、会計担当官、金銭の出入りに全面的な責任を負う出納官吏(多くの場合は、大使館の次席)、そして公館長(大使)の決済を了して、初めて公金をその会食に支出することが認められる。が、現金を受け取ることはない。

会食後、レストランから請求書を大使館に送付してもらい、会計担当官が支払決裁書を作成し、出納官吏の決済を経て、大使館からレストラン側に支払われる。公金が、個々の大使館職員の手に渡ることは普通はない。レストランが請求書の送付を嫌がり、大使館員がその場で支払せざるを得ないケースでは、大使館員が一旦立て替え払いをし、領収書を確保して、大使館内の決済過程を経て、後日支払った大使館員に払い戻しをすることになるが、領収書に記載の金額以上に公金を支払うことはない。チップ代は領収書なしの支払いがありうる例外的なケースだが、その額は、社会通念上おのずと決まってくる。

メディアでも取り上げられた事件だが、外務省以外の別の役所からジュネーブ代表部に出向していた公務員が、架空の会食をセットして、公金を詐取したケースがある。これは明確な犯罪である。

その他、レストラン側と結託して水増し請求してもらい、その差額を着服(一部はレストランにキックバック?)する、架空の領収書を出してもらうというケースもありうるが、これも犯罪である。最近のテレビ朝日職員の事件は、この食事代を番組制作費に置き換えた形だ。1億4千万円の着服だそうだ。

 

犯罪に手をそめる覚悟でない限り、情報収集の過程で公金を私用に貯めることはできないしくみになっている。鈴木・佐藤対談にある「情報収集の為の金も渡している」という弁が正しくないことも、お分かりいただけると思う。

 

外務政務次官就任以来、何かと外務省、特に予算関係で尽力してきたと自負されておられる鈴木氏だ。予算が公開されている、従って、私に限らず個々の公務員の累積給与他は、少し官報をくればほぼ把握できるのは百もご承知である。ご自身が政務次官として国会に提出するにあたり承認され、また国会議員としても承認されてきたのだから。それを「不当と思われる蓄財」とか、「税務調査せよ」とか、まがまがしい表現を使って、私の資金源は、怪しげである、脱税しているに違いないとの印象を国民の皆さんに与えるのは、不正確であり、無責任である。

 

更に、日本国のいわゆる機密費を使うには日本国政府職員の身分が伴わなければならない。私が「情報を取る為の金」を使える立場にあった期間は、きわめて限られている。スイス大使館勤務は、昭和53年4月の外務省入省以来、やっと二度目のことである。鈴木さんたちは、私が日本国政府が給与を支給する大使館勤務を何度も経験しているかのように述べているが、この本が出た時点では、入省翌年のフランス語の語学研修2年、ベルギー大使館勤務3年の計5年が、日本政府から支給されたお金による在外勤務である。それ以外の、自分から志願したアジア開発銀行3年、経済協力開発機構OECD)3年の間に支給された報酬は、必ずしも日本政府からのお金を原資としていない。国際機関の人件費は、加盟国からの拠出金が中心であるが、融資事業を行っているアジア開発銀行職員の給与は、金融機関としてみずから稼いだ資金からも充当されている。

 

「情報を取る為の金」は1986年から89年までの3年、ベルギー大使館二等書記官時代は使える立場にあった。そして、そのお金は大切に効果的に使った。

 

鈴木・佐藤コンビの著書のサブタイトルは「私たちはなぜ失敗したか」となっている。インテリジェンスの極意は正しい情報の把握と報告だ。この不正確な対談のように「間違った情報を意図的に流す」ことは、失敗への第一歩である。

                                (了)

宮内庁は鹿鳴館?オバマ大統領の宮中晩餐に思う(2014.04.26作成)

オバマ大統領が国賓として訪日。宮中晩餐で供された食事のことがニュースで話題になっている。

 

フランス料理だそうである。お酒はフランスのシャトー・ナントカという非常に高価なワインで、160名余の招待客に提供するのだから、大変な額だ。

 

なぜ昨年ユネスコ世界遺産となった「和食」にしないのか。「国賓」として遇するのは、相手国の最も高い位の人である。国王、女王という王族や大統領という国家元首に最高級の「和食」を味わってもらう必要はないのか。

 

それから、和食とともになぜ日本酒を提供しないのか。TPP交渉で牛肉、豚肉の関税レベルをめぐって難航している。米は牛肉、豚肉以上の「聖域」だ。その日本米を使った最高級の大吟醸を提供し、外国に日本酒のファンを増やしてこそ、日本のコメを守り、海外への輸出への道筋をつけることになる。政府がやらなければならないことだ。

 

日本の一部のつくり酒屋が民間レベルで海外販路の拡大に苦労している中、日本政府は後押ししないのか?京都の料亭「菊の井」が和食の世界遺産登録に奔走するのを、日本政府は支えた。

 

宮中晩餐を仕切るのは、基本的には宮内庁だ。外務省も主管課(オバマ大統領の場合は北米局)や国賓の接遇にあたる儀典も一定の口出しはするが、最終的には宮内庁予算である。

 

ケネディ大使の信任状奉呈の際も明らかになったが、宮内庁が提供するあの馬車に御者。日本には古来の文化もあるんだけれど。

 

皇后陛下は着物でオバマ大統領を迎えておられた。雅子様のバッグがフェンディだとかなんとか叩いていた週刊誌があった。皇室こそメイド・イン・ジャパンを完遂して欲しいと思うのだが、フランス料理にシャトー・ナントカ。

 

21世紀になっても鹿鳴館時代を生きる宮内庁で意志決定をしているのはどなただろう。他省庁出身の長官?それとも天皇陛下ご自身?           (了)