パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

Go To トラベルキャンペーン腰砕け(2020.07.16作成)

722日の連休から前倒し実施すると発表したものの、案の定、政府は旅費の何割かを政府が負担するこのキャンペーンから東京を除外し、見直しを決めた。コロナ感染者数がどんどん増加している最中だから、この腰砕けは当然である。

 

自身も退官後は観光事業にも携わってきた。4月の京都の施設の稼働率は100%減。観光だけに依存している人たちの苦境は想像がつく。それでもこのキャンペーンはおかしい。

 

GoToトラベルで感染は拡大する

ゴールデンウイークを逃した観光業界にとり、22日からの4連休から始まる夏休みの掻きいれ時を逃したくはなかったのだろう。宿の側がどんなに感染対策を講じたところで、不注意な客は必ずいる。先日も野球観戦で大声を出していた観客がいたそうだ。夏休みで子どもがいれば、家族同士で声がどんどん大きくなる。コロナ感染回避のキモは、飛沫感染接触感染を避けることなのだ。宿泊施設、土産物店も「無言で」客を迎えるのは失礼とばかり「いらっしゃいませーっ!」と声を張り上げる。キャンペーンで感染拡大は火を見るより明らかだ。

 

宿泊施設は夏のピークシーズンの料金設定をする。これまで観光客が来なかったのだから、値段を下げてもいいはずなのに、客は料金の何割かは補助を受けられるというので、何やら得したような気分になる。メディアもお得、を強調している。補助の原資は税金だ。

 

緊急事態宣言が解除されて、県境間の移動が自由になった6月、長野県白馬村の自身の施設の点検に行った。いつもなら、3月に最後の客を送り出した後、ゴールデンウイーク明けには白馬に来ていた。北アルプスの雪が解け始め、田んぼに水を引き込むころ、あやめが咲いて美しい。今年は外出自粛で6月にずれ込んだのだ。

 

菅総理は富裕層向けのホテルに関心があるようだが

滞在中は自分の施設に泊まればいいのだが、市場調査のため、一昨年の冬にオープンし、テレ東のビジネスニュースに鳴り物入りで取り上げられていた、コートヤード・バイ・マリオットホテルに泊まってみた。スキーシーズンには一泊一室10万円ほどもしていた。

 

それがオフシーズンに加えコロナ禍で、朝食こみでひとり1万円ちょっと。高い料金設定で何割かGoToキャンペーン補助が出る夏休みより、はるかに安く泊まれたわけだ。7月に入ってからは同じ部屋が4万円ほどになっている。自分も子育て中は、仕事や学校の予定に縛られ、家族で旅行にいける時期は限られ、高い料金を払わざるを得なかった。宿泊施設は、ピークシーズンだからとぼったくるのではなく、観光業界が生き延びるためにも平時の値段でキャンペーンに参加してほしかった。

 

ところで、このマリオットホテル、まったく高級感はなかった。もともと企業の保養施設として契約する形態だった森トラストのラフォーレ白馬の施設を模様替えして、マリオットブランドをつけて海外の富裕層狙いのようだが、部屋は実にシャビ―だ。構造的にはラフォーレ時代から何もグレードを上げていない。3人まで泊まれる部屋に小さなユニットバス。海外からの長期滞在者の洗面道具など置くスペースもない。便器の背後に幅40センチ、奥行き20センチほどのプラスティックのスペースがあるが、便器の蓋を閉めずに水を流せば、コロナウイルスノロウイルスも、床はもちろん、洗面用具を置いたこの小さなスペースにも飛び散る。

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狭いユニットバスはラフォーレ時代からのものか?これでピークシーズンは1泊10万円?

 

セミダブルのベッド二つにビニールの畳のスペースが4畳半ほど、押し入れ(!)はあるが寝具で埋まっている。入口扉の近く、ユニットバスの向いに1メートルほどの服をかけるパイプむき出しのクローゼットがあるが、スキーシーズンの冬の厚物衣類3人分をかけるには、まったく狭い。木目調の壁紙もチープだ。自分も含めたサラリーマン家庭が、勤め先が提携しているラフォーレにせいぜい2泊して家族サービスをした気分になっていた施設そのままだ。フロントもレストランも従業員が経験不足なのは明白だった。

 

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この小さいむき出しのクローゼットで1家族が快適に1週間滞在できるというのか?森トラストもマリオットも客の立場に立っていない

 

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押し入れには布団が。海外からの客は大型スーツケースを置く場所もない。


 もちろん市場調査としては安いに越したことはない。行きつけの美容院のカットの上手なおにいさんは、私が白馬から戻ってきた6月中旬、「もうすぐGoToキャンペーン始まりますね」と期待していた。完全な週休二日でもない勤務形態ながら、美容師の彼の場合は平日が休みだ。私の助言は、「キャンペーンなんか待たずに、料金が安い今のうちに行った方が賢明ですよ」だった。

 

 

キャンペーンは相変わらず役所の論理で、予算を1兆円以上投じていることが誇らしいのだろう。所管の国土交通大臣が突如登場。自公連立政権で、なぜか国交大臣は公明党枠になってから長い。これまでの公明党大臣が適材適所であるかどうか知らない。

 

菅総理や二階幹事長が助けたい旅館とは?

地方の老舗旅館でも、12年客がこなくても耐えられるような財務体質ではないのだろうか?私も上京して東京のみすぼらしいアパートの高い家賃に給料の大半をつぎ込んでいた働き始めの頃は、お金がなくて本当に給料日前は悲しかった。が、少しずつ工夫し、節約もし、冬の時代を乗り切れるような蓄えを持てるようになった。イソップの「アリとキリギリス」は真理をついている。長年同じ業界で事業をやってきたのなら、コロナ初年でつぶれるような施設は、経営がしっかりしていなかったのだ

 

都道府県の中で観光客の落ち込みナンバーワンは京都だそうだ。ホテルを作りすぎた、の一言に尽きる。老舗の東急ホテルホテルオークラに加え、相鉄、京急といった東京の鉄道会社系のホテルもある。資金力のあるところは乗り切れるだろうが、中小のホテルなど、ワクチンが開発普及し、インバウンド客が回帰するまで、どうやって借金を返していくのだろう?金利が低くても借りたお金を返すには空き室を埋め、日銭を稼がなければならない。コロナ前からすでに相当下がっていた客室単価を、さらに下げる消耗戦だ。京都の猫も杓子もインバウンド狙いは、本当にお粗末だった。建築許可を出した京都市も、まだブルーオーシャンだ、投資しようとやってきた首都圏資本の経営陣も。キャンペーンでこういうところを救えるとは思えない。                 (了)