パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

災害時の救済―優先順位は?(2018.09.10作成)

9月4日、台風21号が関西に残した惨状に驚いている最中、北海道で震度6強の地震

 

人間の歴史は、自然災害の被害を少なくし、最大の人的災害である戦争勃発を抑止するかであった。

 

都市と地方のいずれが自然災害に強いか、という論争がある。大阪、神戸、京都という大都市を抱える関西を最強台風が直撃して死者10名。7月に岡山や広島を襲った豪雨での死者は200名以上。

 

関空の復旧はどれくらい時間がかかるのだろう。海面に浮かぶ人工島だから浸水は想定内だったのだろうが、タンカーが連絡橋に衝突する、という事故が重なった。人工島の被害は、土砂崩れや川の氾濫が予想される地域を宅地開発して生活していたという岡山、広島の被害拡大に通じるものがある。もともとリスクはあったのだ。それでも24時間発着可能な空港は、インバウンド観光客による関西経済圏の活気に繋がっていた。伊丹空港では、インバウンド効果は得られなかっただろう。

 

最近、ルフトハンザ航空のオーバーブッキングでひどい目にあった、という体験者の報告を目にしたが、関空に閉じ込められた3-5000人もの客や従業員を、台風の翌日早朝から高速船で神戸に運んでいるニュースを目にすると、危機管理は機能しているとうれしくなる。1航空会社だけの問題と空港機能全体の問題は一律に比較できないが、時間が来たら有無を言わず作業を打ち切るドイツ人と、サービス残業もいとわない日本人との差も垣間見られる。不眠不休で働いた関係者には、相応の対価を払ってあげて欲しい。

 

地方での自然災害というと、数年前、白馬村地震に遭遇した。実際倒壊する家屋も多数あったが、死者はゼロ。普段からご近所で声を掛け合っているので、避難所に誰かがいないとすぐにわかり、救援にかけつけることができたから、という後日談を現地の方から聞いた。これには、「絆」は言いかえれば「しがらみ」ともなるという見方ができる。白馬村では、年間6-7万円もの自治会費を納めないと、地域のゴミ集積所も利用させてもらえないらしい。地方の村では普通のことだという。7万円納めていれば、ゴミも捨てられるし、何かあった時の声かけもしてもらえる、ということだ。

 

ともあれ、首都直下型地震南海トラフの可能性は現実の今そこにある危機大規模災害の際、誰をどこまで優先順位をつけて助けるか、という議論は、官邸の奥では秘密裡にされているのかも知れない。最近この問題につながる3つの事件があった。

 

1.終末医療施設のエアコンが壊れて、年配者が亡くなった

2.障碍者施設で多くの障碍者を殺傷した受刑者が本を出版するという

3.杉田水脈参議院議員の、「LGTBの人は生産性がない」という「新潮45」への寄稿

 

人間に優越はない。緊急事態でもないのに、あの人たちは生産性が低いから税金で支援する必要はないと主張し、自分の子どもは一人だけで「再生産レベルに達っしていない」国会議員はまことに困ったちゃんだ。が、本来平等であるべき人間をどうしても選別せざるをえない緊急事態において、より多くの人を救える方法や全体利益をいかに増大させるかについては、バッシング、炎上覚悟で議論しておいた方がよい。

 

飛行機に乗ると、毎回救命器具の使い方説明がある。子ども同伴の場合、まず親(保護者)が救命器具を確実に着けてから、子どもの装着にかかれと言う。①親も子どもも助かる、②親だけ助かる、③親も子どもも命を失う、という三つの可能性の中で、まず親が助かる準備をすることで①の可能性を高める。納得できる。

 

東西冷戦の頃、ロシアによる核攻撃が現実ものであった永世中立国スイスでは、各住戸が核シェルターを設けることを義務付けていた。そして、核兵器が使用された場合は、人口の3割が助かればよい、という歩留まりを想定していたという。日本なら、全員救助、という現実的でないことを表向きは言わざるを得ないのだろう。

 

一時流行ったハーバード熱烈教室で、マイケル・サンデル教授は「正義の話」の一つに、危険にさらされているのは二人だが、一人しか助けられないときどうするか、を議論の例に取り上げていた。

 

都市と地方の話にもどれば、東京都港区の何億円もする高級マンションは、最新鋭の免震構造の建物で防災センターがあり、マンション住民のため食料、水を備蓄し、自家発電装置まであるそうだ。大規模自然災害の際でも、高収入で、稼ぐ力の強いこういうマンションに住む人は生き延びる可能性が高い。こういう稼げる人たちが復興に寄与してくれる、ということか。わざわざ政府が物議をかもして救済の優先順位をつけなくとも、自ずと選別されているということなのだろう。千代田区、港区、中央区に本社を置く法人の税収も相当な割合を占める。都心3区に住まない私だが、それでいいと思う。

                             (了)