パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

イベント屋山本寛斎氏(2020.08.01作成)

数日前に亡くなった李登輝氏と比べるべくもないが、デザイナーの山本寛斎氏が亡くなった。仕事で少しだけ接点があった。

 

1990年代、ソ連がロシアになったばかりで混乱が続いていたころ、山本氏がロシアで花火大会やファッションショーを交えたイベントやりたい、と外務省の某課長にお金を出してくれ、と迫ってきた。ロシアとの協力関係というと割と予算が付いた時期だった。ロシアが混迷している時期に、ロシア側に味方を増やして北方領土を取り戻すきっかけが欲しいが、切り札のない日本としては何にでも頼りたかったのだ。

 

2日程度のイベントで結構な政府助成が付いたと記憶している。積極的にお金を付けた課長に「こういうイベントをやって何か外交上のメリットがあるのですかね?」と聞くと、「日本語教育の普及なんてちまちましたことをやっていてもおもしろくない。何か大きいことをやらないと」との返事。まさに打ち上げ花火のようなイベントだった。

 

ロシアとは、その後リーダーがエリツインからプーチン(傀儡のメドべージェフ首相・大統領をはさんだりしたが)に代わっても何も変わらない。例の鈴木宗男氏もムネオハウスとかイスラエルにおけるイベント等に多額の日本の国家予算をつぎ込んだが、北方領土は1ミリ平方メートルも返ってきていない。

 

相手国のある話でことは簡単ではないのはわかる。が、ロシアの混乱に乗じて東西ドイツ統一を成し遂げたのはドイツの歴史的外交的成果だ。同様に、戦争ではなく、平時に沖縄返還を実現した佐藤栄作首相はどれだけ嫌われていても、偉い。誰もこの人がノーベル平和賞受賞者であるとは覚えてもいないが。毎年、過去の日本の医学賞や化学賞受賞者を伝える日本のメディアも、日本人唯一の平和賞受賞者についてなぜか深堀しない。どことなくまやかしというイメージがあるのかも知れない。繊維貿易で米国に譲歩したと言われた。糸で縄を買った、とも言われた。繊維の糸へんと沖縄の同じ糸へんの縄だ。それでも沖縄を取り戻したことは間違いなく歴史的快挙だ。

 

日本の「格差社会」の話題になると「元凶」として取り上げられる小泉純一郎首相だが、拉致被害者5人を北朝鮮から取り戻したのだ。凄い。

 

結果を残せなければ、政治家もその後ろで政治家に助言する官僚も評価はゼロ、つぎ込んだ多額の税金は無駄金だったということだ。

 

山本氏の死亡記事では「ロンドンで日本人として初めてファッションショーを開いた」という形容詞がついていた。Kansai Yamamotoとアルファベットで検索しても、英文記事も仏文記事も出てこない。高田賢三氏や三宅一生氏、同じ山本のYoji Yamamoto氏のような世界的なデザイナーではなかったのだろう。デザイナーとしての自分の限界に気づき、ファッションを少しだけ織り交ぜたイベント(?)を主催することに舵を切ったのだと思う。

 

やりたいことは自分で工面したお金でやるという考えの自分は、つい「公金に頼るなよ」と思うのだが、世の中山本氏に限らず、使えるなら人のお金はどんどん使おう、という人はいっぱいいる。こういう民間人とコラボして、大きな予算を獲得して喜んでいる役人も同類だ。「成果」「政策的意義」なんて興味はないのだ。山本氏の受け皿になった外務省の担当課長のその後の経歴をみると、なるほど見事に公金にたかって生計を立てている。外務省の外郭団体にいつまでもへばりつかず自分で稼げよ、と言いたくもなるが、そういう人なのだ。

 

日本だけではなく世界には「自分で稼ぐ人」と「他人のお金にたかる人」の二種類いる、ということだ。

 

なお、山本氏の娘だという女優の山本未来さんは割と好きだ。正統派の美人ではないが、長身で、「潔い」政治家やキャリアウーマンの役が良く似合う。たかりやの父親は反面教師になったのだろうか?                  (了)