パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

雅子様の消費(2013.03.15作成)

最近発行された月刊誌や週刊誌は、皇太子妃雅子様の山中湖校外学習への同行費用や衣服、会食の支出を宮内庁の公開資料を元に報じている。

 

オランダで静養するために乗った飛行機がファーストクラスでこれだけかかった、イタリアブランドのバッグ購入にいくら支出されたか等々である。税金だから支出の細部まで公開されて当然だが、これを契機に雅子様の病気からの快復はますます遅れ、愛子様は学校でまたいじめられるのではないかと案じる。

 

税金の使途に納税者がうるさくなることは良いことだ。公共事業実施に効果があったか、講じた政策の成果は何か、公務員は給与、手当に見合った仕事をしているかを検証し、政策の見直しをするのは大事なことだ。アメリカ独立戦争の動機no taxation without representation、平たく言うと「使い道に口を出せないなら、税金を納めよと言うな」に照らしても当然だ。

 

雑誌は、皇太子妃は公務を果たしていないのに、こんなに支出だけあると訴えている。日本の皇室において皇太子妃の最大の「公務」は男子を産むことだ。今日皇太子妃を取り巻くすべての問題はその一点に起因している。英国王室ではキャサリン妃が身ごもっているお子さんは女子らしいので、男女を問わず先に生まれてきた子が上位の皇位継承権を得るよう制度を変えて、皇太子妃の精神的負担を減じることにするそうだ。日本はそういう動きになっていない。雅子様に男の子さえ生まれていれば、こんなバッシングもなかったろうにと思う。生前のダイアナ妃が最初に生まれた子が男子で実にほっとした、という趣旨の発言をしている。一方、男の子さえ生まれれば解決ということでは、未来永劫皇太子妃の負担は減らず、20年後、30年後悠仁様の妃になる女性を見つけるのは本当に難しいだろう。

 

歌舞伎の家系に女子で生まれた寺島しのぶ松たか子、大横綱大鵬の3人の女のお子さんも悔しい思いをしたのだろうな。出産をした母親もねぎらわれることなく「なんだ女か」という無言の失望を感じて、悲しい思いをしたのだろう。

 

「公務」を果たしていない、だからこんなに支出するのは許されないという国民目線に雅子様が少しでも答えるにはどうしたらいいのか。

まずはバッグや衣服は国産のもの、日本人デザイナーのものにすることだ。この点、美智子皇后を見習うべきなのは当然だが、外務省北米局北米第二課に在籍した妃殿下なら、日米貿易摩擦が火を噴いていた時のアメリカ人のBuy American運動を覚えておられるはずだ。自身の好みを抑えて意図的にBuy Japaneseを心がけてほしい。ある女性参議院議員有権者やマスコミのいないところではスイスのピアジェの時計を身に着け、選挙の時には国産の時計を身に着けるそうだ。私用車はドイツ車ではなく国産車という政治家も多そうだ。

 

生前のダイアナ妃はファッションミューズとして(英国製でない)ディオールのバッグ、トッズの靴を身に着けていた。それでもチャールズ皇太子との別居の最中、沿道の人はDiana, We still love you!(ダイアナ、それでもみんなあなたのことが好きだよ)というプラカードを掲げ、パリで事故死した際、ブレア首相をしてPeoples Princess(人々のプリンセス)と呼ばせた。雅子妃に比べてはるかに勉学が苦手な20歳のミーハーの女の子にとっては不幸な結婚だった。が、彼女は自分の不幸を嘆き悲しむ時期を乗り越え、アフリカの難民キャンプの子供への支援や地雷への異議を訴え、自分同様不幸な人へのシンパシーを上手に表現し、メディアに書かせた。

 

外務省的には難民支援も地雷禁止もみな外交だ。特に地雷禁止は、自国の防衛を在日米軍に頼る日本にとっては、極めて政治的、軍事的に難しい案件だったから皇室としては避けなければならない。そのあたりのことは雅子妃の方がダイアナ妃より理解しておられるはずだ。が、ダイアナ妃は側近や王室の守旧派の「なりませぬ」を突破して自らの心情を世界に訴えた。オランダに静養に行くのも、山中湖に同行するのも「なりませぬ」という人がいたはずだが、それは突破した。はっきり言ってここまで言われて妃殿下にはもう失うものはない。父君の立場や妹の家庭のことは心配かもしれない。私も外務省を辞めるのは父が他界してからにしようと思っていた。が、チャールズ皇太子とは違って素晴らしい伴侶に恵まれておられるのだから、自分の娘愛子のためだけでなく、日本国民のため、世界の人々のために働くのだ、抵抗勢力なにするものぞ、という決意をし、実行する突破力があれば、応援する人は必ず出てくる。

 

ちなみに「税金で蓄財しやがって」とお叱りを受けた私は、それ以前から外国でも日本でも車はトヨタマツダ、ホンダだった。時計はセイコーシチズン、靴は銀座ヨシノヤにかねまつ、この文章を打っているパソコンは諏訪湖近くで生産された100%メイド・イン・ジャパンのソニー。国産のリンゴやデコポン、特に福島の桃のおいしさには心底感激している。役所を辞めて以来、生活費は税金が出どころの公務員給与でもないので国産にこだわる必要もないが、歳のせいか日本のものがおいしいし使い勝手がよい。妃殿下も人生の第三ラウンドを悔いのないものにして下さい。応援しています。

                                 (了)