パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

「相棒」第19話 漂流少年~月本幸子の旅立ちと「アポ電」(2019.03.17作成)

捜査もの、刑事もの、推理もののテレビ番組が大好きである。

殺人、逮捕が伴うドラマで、自分の知らない世界を垣間見る楽しみがある。2時間ものの温泉女将、葬儀屋とか法医学教室とかは、殺人の動機が嫉妬や母の子を想う思いとか、ちょっとクサい感じがする。が、スポーツ番組かバラエティ番組しかなければ、少々くさくても事件ものを見る。

 

「相棒」は1時間番組で、クサい話もあるが、犯人の大金持ちの豪邸や別荘が出てくることも多いのでインテリア好きにはおもしろい。ロケをしているのだから、豪壮な邸宅が実際にあるのだろう。この日本に!

 

先週の「相棒」は、前週からの続きだったが、オレオレ詐欺振り込め詐欺の受け子を集める胴元のことが取り上げられていた。親に見捨てられ、高校も中退した少年に寄り添うようなふりをして受け子のなり手を物色する。他の刑事ものでも、恵まれない若い人を救うふりをして政治家進出をめざすNPO法人代表(速水もこみち)が登場したこともある。

 

説得力がある。「中卒」では就ける職業は限られてるぞ、一生底辺生活だぞ、言うことを聞けば大金を稼げるぞ、とそそのかされる。私は大学で学生に「社会リテラシー」を身に着けることを目的として講義を担当している。こういう少年たちには、騙されないように学ぶ機会もないのだろう。

 

「アポ電」で現金が家においてあるか確認し、高齢者の家に押し入り、殺害した容疑で男3人が逮捕された。27歳の格闘家で土木作業員と22歳の長野県の同郷二人。銀行振り込みの取り締まりが厳しくなり、組織の幹部は受け子に現金を実際に受け取らせる路線に変更した、そうだ。

 

こういう事件が報道される中での「相棒」は、鈴木杏樹演じる薄幸な女性(夫を殺した男の愛人にならざるを得なくなり、収監もされた)が、受け子の少年を救おうと命をかけ、小料理屋の女将をやめて、ついていない少年たちを救うプロになる決意をする話だった。

 

この番組では少年をかくまう人情溢れる古道具屋も登場する。市原悦子さんの遺作となった「しゃぼん玉」は、だらしない親に捨てられ、ひったくりを繰り返す若者の更生を描いている。市原さんと頑固おやじが愛情深く若者に接するからこその更生物語だ。そういう人に会えなかったら落ちるしかないのだろうか。

 

数年前に高倉健さんが亡くなったとき、この俳優さんがやくざ者、犯罪者を演じる若いころの映画を何本も一気に観た。任侠物は戦前、網走番外地は戦後が舞台だったが、恵まれない環境に育った若者の一部は、やくざの世界に身を置かざるを得なかったことがわかる。日本社会は格段に豊かになったが、いつの時代も恵まれない子たちはいるのだ。ベーシックインカムが支給されたら解決するのだろうか?

 

お金だけではなく、下心をもって寄り添う「フリ」をする人物ではなく、心底寄り添って、自分を信頼してくれる人がいるかどうかが決めてのように思う。  (了)