パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

「しゃぼん玉」―柴犬に魅かれて視聴したらいい映画だった(2019.02.27作成)

我が家の飼い犬は柴犬である。もうすぐ10歳になるオスだ。

 

柴犬は日本犬の代表格。日本の匠の技を紹介するテレビ番組「和風総本家」では、柴犬の子犬豆助が狂言回しだ。積水ハウスは色々なバージョンのCMで柴犬を登場させる。ともに過ごした永野芽郁が嫁ぐのを送り出す老メス犬版もほろっとしたが、今の大きなリビングで家族が思い思いに過ごすオス犬ジョンのバージョンも微笑ましい。

 

思えば、坂道の上に立つ家の前で、家族を待つ柴犬が夕日にきりっとした顔を照らされる積水ハウスのCMを見て以来、ずっと柴犬を飼いたいと思っていた。同社の正月の全面広告にも柴犬は欠かせない。忌まわしい地面師事件も忘れさせる清涼剤のような犬だ。

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人気のない砂浜にさっそうと立つポチ(ビビりだけど)

 

アマゾンプライムで何を見ようかと探していたら、宣伝ポスターに愛らしい柴犬がすっくと立っている姿に魅かれた。最近亡くなられた市原悦子さんの映画なんだ、テレビ番組「リーガルV」で米倉涼子にポチと呼ばれていた可愛い顔をした若い男優の名前はへえー、林遣都っていうんだ、程度の認識で見始めた。原作は直木賞作家乃南アサさんだという。

 

テレ朝の「ポツンと一軒家」という番組が人気だそうだ。私も好きだ。日本全国、行政に頼らず、自力で厳しい生活環境の山あいで生活する高齢者が紹介される。映画「しゃぼん玉」の市原悦子さんの住まいも、宮崎県の椎葉村(しいばそん)の山麓にある文字通りポツンと一軒家だ。美しい棚田、山の稜線が描かれ、夫に先立たれ、ドラ息子は都会に出て行ったきり、そこで一人で畑を耕し、毎食複数のおかずをそろえ、家のなかもきちんと整えた生活をしている老婆がいる。額に汗する労働とは美しいものである、ITがどうした、AIがなんだ、これが人間の原点なのだ、と思い知らせてくれる。

 

そんな老婆の飼い犬が柴犬だ。犯罪者の主人公林遣都に「バカ犬」とののしられても、きょとんと首をかしげている。日本の過疎、高齢化の山あいで、老婆に寄り添う犬は柴犬以外に考えられない。トイプードル、チワワでは物語にならないのだ。柴犬はそのたたずまいで、主人公のすさんだ青年を癒している。

 

2011年夏、仕事から帰った私は自分の飼い犬柴犬ポチを抱きかかえて泣き続けた。その日、私は日本の高名な政治学者だという御厨貴という人に公開の場で、罵詈雑言を浴びせられた。明らかに御厨氏の虫の居所が悪く、運悪く私がその虎の尾を踏んでしまった。

 

その時、夫や息子がどこにいたのか全く記憶にない。帰宅した私に走り寄って迎えてくれた柴犬を抱きしめて、こみ上げてくる悲しさ、くやしさを噛みしめていた。

 

映画「しゃぼん玉」はハッピーエンドだ。主人公の青年は、老婆と柴犬、それから村の人々に癒され、自ら犯した罪を自覚し、出頭して刑期を終えて老婆も健在の村に戻ってくる。青年の更生を祈りたくなる理由の一つに、林遣都が大変な美青年だということもある。ふと、今年1月に女子大生を殺害し、死体を遺棄したとして逮捕された容疑者の、頭髪を失い、自堕落な生活からか卑しくなった風貌を思い出した。映画の主人公が犯罪者でも、鑑賞者が感情移入するのは、自らの罪を後悔する美青年だからだ。別の映画、文字通り「悪人」でも、過疎の村で解体作業に従事する主人公の境遇や、間の悪さから罪を犯したことに同情するのは、悪人役妻夫木聡の美形ぶりが際立つからでもある。

 

それが御厨貴氏のような顔だったらどうだろう。私は今でも愛犬ポチを抱きしめながら泣きじゃくったことを思い出すたび、あの御厨氏の醜い顔に唾棄したくなる。(了)