パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

黒木亮著「排出権商人」(2012.12.15作成)

黒木亮さんの本は金融や途上国ビジネスの世界をビビッドに描いていて、読み応えがある。現役の外交官だった頃に読んでいれば、企業実務にもっと想像力を膨らませることができたのにと、後悔している。

 

曲がりなりにも京都議定書交渉団の一人(報道担当)だったので、議定書締結後活発になった「排出権取引」の現実を知りたい、という思いで読み始めた。排出権ビジネスやカラ売り屋の話も面白いが、珍しく女性が主人公なのも新鮮である。私の記憶では黒木さんの本では初めてではないだろうか。

 

外部環境に振り回され「忍草」のように生きていかざるを得なかった明治生まれの祖母への思いが、主人公冴子が自分で人生を切り開いていく原動力の一つになっている。著者が男性なのに良く書けているな、と感心する。彼女がまかされたマイナーな部署が最後には東証一部上場企業の債務超過、上場停止を回避することになるところも、著者の恵まれない部署で懸命に努力する主人公への温かい目を感じ鮮やかだ。

 

明日の選挙も、日の当らない部署にいて頑張る者の声が反映されるのだろうか。(了)