パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

女性の社会進出と外国人労働者(2012.11.14作成)

ある会合で日本における外国人労働者政策が話題になった。外国人を入れる前に女性の活用だ、ロボット技術だと白熱していた。唯一の女性参加者であった私は、うつむいて「女性の社会参加と外国人労働者受け入れはパッケージなんだけど」とつぶやいていた。

 

その会合は夜7時からだった。中学2年の息子の夕食を電子レンジでチンすればよい状態にし、翌日の弁当の用意もしてから出かけた。多くの女性は、自分一人だけのことを考えていればよい状況にはない。子育てに介護

 

働く女性にとって状況が激変するのは、子どもが生まれてからだ。実際、日本女性の有職率はM字を描き、子育て時期にガクンと下がり、そしてあまり上昇しない。子どもが4人も5人もいる東京在住のアメリカ人女性は、住み込みのタイ人やフィリピン人の助けを借りている。本国ではメキシコやプエルトリコ出身のメイドさんに頼っていたという。欧州なら、アルジェリア人やモロッコ人の女性が働くフランス人女性を支えている。

 

日本では、子を持つ有職女性が頼りにするのは実家の母親だ。私が頼ったのは、公立保育園、そして日本人による安くはない民間保育サービスだった。実家が大阪で東京から遠く、おまけに子を授かったときには自身が高齢なので実家の母も高齢、とても子の面倒を見てもらえる状況にはなかった。

 

だから外国人労働者を入れる前に女性の活用を、とは簡単に言い切れない。女性が働き続けるにはインフラが必要である。働く男性のインフラになってきたのが専業主婦であった。女性もサポートがいるのは同じだ。先進国では女性の社会進出を支えているのは、出稼ぎにきた途上国の女性である。途上国の富裕有職女性(政治家や会社経営者)を支えるのは同胞の貧しい女性である。女性間の格差を固定化させるのかという議論もあるが、日本女性が移民労働者として海外に渡った時代もある。 

 

家庭内の男性の協力は当然としても、夫婦だけで厳しい子育て時代を乗り切るのは難しい。人手の確保に加え、家事労働を軽減する商品、サービスはまだまだ伸びる余地がある。掃除ロボットは助かる。水回りの掃除までしてくれる製品が待たれる。自動食器洗い機しかり。一時は世界の家電マーケットを席巻した日本メーカーから初めて出た商品ではない。メーカーの商品開発に女性が少ないのかも知れないが、「女に楽をさせるな」という暗黙の社会規範も重くのしかかる。

 

私のロールモデルアート引越センターの寺田千代乃さんである。役所の婦人少年局長ではない。引越となると台所用品や子どもの思い出アルバム、学校でのノートや作品等の整理を含め女性の負担は大きい。寺田社長はきめ細かなサービスで引越の負担を大幅に減らしてくれた。外務省を退職し、海外への引っ越しから解放された今改めて思う。ニーズにこたえてくれた経営者は偉い。            (了)