パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

スイス銀行の秘密主義はオワコン?宝の山を生かしきれない日本。

補助金頼みのイタリアのアグリツーリズモvs政府のクレディスイス救済策

今日3月18日の「人生の楽園」も、小さな食堂を週4日営業する女性とその夫の画家の話だった。食堂の食材は自前か知り合いからのおすそ分け。食堂のお客さんもお決まりのご近所さんだった。でも、誰にも迷惑をかけず、肩を寄せ合って生きている。役人が退職後、何の役に立っているのかよくわからない組織に再就職し、公金で給与を支給され続けるよりずっと清々しい。

https://blog.hatena.ne.jp/IeuruOnna/ieuruonna.hatenablog.com/edit?entry=4207112889971404772

 

イタリアの農家民宿も家族経営。イタリア政府は過疎地の人口流出を阻止するため補助金を出してアグリツーリズモを奨励している。先進国はいずこも同じ問題を抱えている。

 

イタリアは北部でスイスと国境を接する。先週の「小さな村の物語」に登場したアオスタは土地勘がある。3000メートル級の山が連なる中、北のスイス側からトンネルを超えて最初に現れるそれなりの人口の渓谷の街だ。周辺には文字通り小さな村がある。山の標高が高いので、日当たりが悪く斜面は暗い。渓谷の岩を削った石を瓦にしている。この岩の色も黒っぽく、イタリアといえば陽光輝く黄色やオレンジ色の街、というステレオタイプの印象は当てはまらない。そんな村の家族経営のホテルの家庭料理が非常に美味しかったことを懐かしく思い出す。

 

 

 

過疎地に富裕層を集めるスイス、高級ブランドで富裕層を魅了するイタリア

アオスタ地方同様に山国のスイスは知恵を絞り、山奥のサンモリッツダボスを高級リゾートにして、世界中の富裕層を集める一方、多額の補助金で農業保護をして酪農をようやく維持している。税金逃れやマネロンで世界中から怪しげなお金を集める金融業で豊かな国になっているが、酪農を維持するには補助金と旧東欧諸国からの移民労働が頼りだ。イタリアの金持ちも隣国スイスに課税回避をしている。日本もイタリアも金融で世界のお金を集める才覚はなさそうだが、それでもイタリアの方がマセラッティやフェラーリという高級車、ブルガリやゼーニャという高級服飾、宝石ブランドで世界中の金持ちのお金を集めている。プーチンのダウンコートはグッチだそうだ。

 

こざかしくうまくやっているイメージのスイスだが

先週、クレディスイスの株価が30%以上も下がったとか。米国連邦準備理事会による度重なる利上げで、米国のシリコンバレー銀行は経営破綻に陥ったが、クレディスイスは性質の違う問題を抱えている、と専門家は指摘する。

www3.nhk.or.jp

 

経営の不透明性、財務内容の非開示で、クレディスイスはここ数年、何度か経営危機に陥っている。私が在スイス大使館時代に取り組んだ、日本の闇金融の帝王が犯罪収益をスイスに移転する(マネロン)のに手を貸したのもクレディスイスだった。

闇バイトを集めて強盗させ、資産家から大金を奪う日本の犯罪者グループは、フィリピンを拠点に荒っぽいカネ稼ぎをしていたようだが、クレディスイスのやり口も、直接的な殺人はないものの間接的には人を死に追いやりかねない、表面は上品だが犯罪のニオイがプンプンするものだった。同行のチューリッヒ支店に秘匿された日本の闇金業者の資金を、チューリッヒ州政府は日本に返さないと強硬に主張した。スイス連邦政府に日スイス関係を重んじる立場から、州政府を説得するよう促した。

経済連携協定を締結して、日本との経済関係を更に拡大したいスイス連邦政府に対し、苦境に落ちている闇金被害者のお金を、濡れ手にアワでチューリッヒ州が没収したままでいいのですか?」と私が言った時、別に本省のお伺いを立ててはいない。が、こういえば連邦政府側は、州政府を説得してくれるだろうと踏んだ。当時の本省課長は、「闇金でお金を借りて、パチンコで全額スってしまうような人たちですよ」と闇金被害者を助ける気はさらさらなかった。保身に走る外交官なら、本省の言う通り行動する。すなわち不作為に徹する。そんな役人人生、面白くない。

ことほどさように、クレディスイスといえば、怪しげなお金。スイスのもう一つの金融業の雄で、今回クレディスイス救済に乗り出すか、と報道されているUBSは、クレディスイスほどアコギな商売が表に出ていないが、本質は同じ。自身のUBSとの苦い経験はまた、別の機会の紹介しよう。

今回のクレディスイス危機を、スイスが何世紀にもわたり続けてきたマネロンビジネスモデルの終焉、ととらえる向きもある。アルプスを南に超えると、昔チーズを復活させようというイタリア人家族がいる。山国で、農業生産性はどうしても低い。もちろんスイス側のアルプスの民も、懸命に酪農に取り組み、子沢山の時代には、男子はヨーロッパの他の国の戦争に傭兵として従軍した。苦労してきたのだ。

そんな中、秘密主義の銀行によその国の富裕層の資産を賢く集めるビジネスモデルを確立した。楽してお金を儲ける方法に誰かが悪知恵を絞ったのだ。秘密が守られる銀行にお金を預けたい人は世界中にいる。プーチンだって、クーデターに備え、海外に隠し資産を持っているはず。

山奥の農家民宿でほそぼそと生計を立てる人よりは、スイスの銀行家の方が頭は良いのかも知れない。が、犯罪行為に手を染め、犠牲者を踏みにじっている。チーズや昔とうふの復活にいそしむ人々が報われる社会であって欲しい。地道でアナログの仕事でも、品評会で金賞を獲得すれば、そのとうふもチーズもブランド品になる。世界中の富裕層が所望する、高価なとうふ、チーズに化けるのだ。

 

 日本のクイズ王になるより世界のブランド王に

大京大出身者の中にクイズ王やテレビのコメンテーターで活躍する人がいてもいい。職業選択の自由だ。が、その頭脳を日本の富を増やす分野に使う人ももっと現れて欲しい。

細々と農作業をし、民宿を営む人々が小さな幸せを追求するのは日伊とも同じだが、日本も是非和牛、りんご、あまおう、清酒等の高級品で世界の富裕層を魅了し、マセラッティ並みに外貨を稼いで欲しい。

先日、京都開花堂の茶筒を購入したが、こうした生活に密着した工芸品も高級ブランド品としてどんどん世界の富裕層に認知してもらいたい。

 

開花堂茶筒200g お茶は毎日飲む。バッグより手に取る頻度は高い。



日本の実直な農家の人々が、美味しい米や果物を作ってくれる。東大出身者が、日本のテレビ番組でクイズ王になっても、日本全体の富は増えない。種子や和牛の子牛が海外に流出してから外国を責めるのではなく、日本人の側で流出に手を貸す人々をしっかり抑止し、流出行為が大きなペナルティを受ける制度を設計すべきだ。

が、役人の立場では難しいのかも知れない。私が担当したのはスイスという小国で、スイスのために政治生命をかける日本の政治家はいなかった(と思う)。だから、役人としての行動の自由度は高かった。これが、日米関係や日韓関係、日中関係なら、内野外野に応援団、反対派のいずれも多数いて、役人の仕事は政治家他の関係者のご機嫌を損ねないよう細心の注意を払うことに終始しかねない。それでも、政治生命をかける政治家の説得ならそれなりにやりがいがあろう。やっかいなのは、世襲政治家で、自身が成し遂げたいことが分かっていない人物だ。世襲政治家にとり、日本全体の富を増やすことより、家業「政治家」を守ることの方が大事そうに見える。 

3月18日記