パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

価格と効用(2018.08.28作成)

300円の牛丼より、浅草今半の1030円のすき焼き弁当の方が、3倍以上おいしいか、と問われると意見が分かれるだろう。

 

近頃は軽自動車も安くはなく、あれやこれやで150万円の軽自動車と400万円クラスの普通車を新車同士で比べると、その効用は3倍以上になる。これくらいの普通車は頑丈で大きいし、アクセルを踏み込まなくてもすぐに加速する。高速道路での安定感も3倍以上だ。税金や有料道路使用料、保険料、ガソリン代は3倍にもならない。が、近場しか移動しない、セカンドカーとしてのみ使うという人にとってみれば、軽自動車の方がvalue for moneyかもしれない。

 

箱根の一泊二食3万円の老舗ホテルと一泊二食6万円の人気旅館では、満足度は2倍以上、6万円の方はまたお金を貯めてもう一度泊まりたいと思ったが、3万円の方は一回で十分。食事の内容、サービス、施設の快適さ等々、大きく違っていた。もちろん、1万円くらいでも満足度の高い宿もある。これはカテゴリーが違うので、部屋と食事と風呂のみ、という宿同士で比較する必要がある。

 

マンションは駅から7分以内で管理が良い物件を選ぶようにと説く方がいる。管理状態はすぐにはわからないので、マンション価格を駅近で比較してみよう。有名な広尾ガーデンヒルズ。棟にもよるし、日比谷線の長い車両のどこに乗車しているか、にもよるが地下鉄車両を降りてから10分以上かかるところもある。エスカレーターやエレベーターが整備されておらず、反対方向への乗り換えは階段を上り下りしなければならない古い地下鉄路線の不便さや、「ヒルズ」の傾斜地に建っているため、公道から玄関まで階段があるバリアぶり。。

 

同じく「ヒルズ」の元麻布など、息を切らして坂道を上ることになる。坂の多い田園調布の一戸建てを売って、元麻布のマンションに引っ越して来たらやはり坂だった、では冗談にならない。夏は辛い。六本木ヒルズはエレベーターが充実しているが、そもそもヒルズ族は地下鉄を利用せず、坂道を歩くこともなく、タクシー、あるいは自家用車か運転手付きで送迎されるから、「駅近」は物件選択の論点ではないらしい。こういう富裕層相手に「駅近がいいですよ」と説くのは、ズレている。 

 

所得水準次第でライフスタイルも変わるから、広尾のナショナル麻布スーパーや、成城石井、六本木けやき坂のLincosで必要なものは買い、そもそも自炊などせず、料理人を抱えているかもしれないし、外食、ケータリングを利用したりするのだろう。六本木ミッドタウンの東急系のプレッセは24時間営業。プレッセではなく、Pricyプライシー(高い)と呼ぶ人もいる。同じ系列の東急ストアで5000円出せば買える量と、プレッセで同種類のもので買える量とは大きく異なる。

 

この季節、一房2000円もするシャインマスカットと、2房500円デラウエアでは、満足度は4倍違うか?というと最初の牛丼と浅草今半との違いと同じ問いになる。シャインマスカットは贈答用と考えれば、どこにでもある2000円程度の菓子折りよりもらった方の満足度は高い。自分ではなかなか思い切って買えないからだ。もちろん、東急ストアでも、プレッセでも自宅用のデラウエアで比較している。袋詰めの人件費や、24時間営業、スーパーの袋1枚3円は加算しない分、全部商品に上乗せされているから、同じ商品でもプレッセの方が必然的に高くなる。

 

マンションの価格の話に戻ろう。運転手付きの生活をするのでない限り、駅近の方が良い。その駅も日比谷線、銀座線のような古い地下鉄の駅より、南北線半蔵門線のような新線の方がバリアフリー化が進んでいる。私鉄でも、資金力のある鉄道会社の駅の方が、バリアフリー化が進み、踏切をやめ高架になり、遅延が少なくなる。

 

価格が下がらないマンションだからといってヒルズにある物件を無理して買っても、自分のライフスタイルに合わないなら満足度は低い。自分が住むのではなく投資物件としては賢い選択かも知れないが、人に貸し、将来はキャピタルゲインを狙って売却するために一億も二億も出すより、自分が住んでいる手頃な駅近物件を床暖房にするとか、断熱や耐震にお金をかければ、日々効用が得られる。せいぜい数百万円程度だろう。不動産にかけるお金の比較としては、満足度ははるかに高い。

 

つまらない話かも知れないが、窓のある一戸建ての風呂なら、換気扇を使わなくてもカビ知らず。マンションにたどり着いても、エレベーター待ちのイライラもない。皆、コロッと忘れているが、3.11の直後はエレベーターは停まり、その後も節電で高層マンションは稼働するエレベーターの基数を減らしていた。タワマンの高層階の揺れの恐ろしさが問われないとは、防災意識の風化はひどいものがある。

 

エルメスのバッグは値段が下がらないそうだ。重たくて使い勝手が悪くても、最新モデルのバッグを1-2年使い、流行おくれになる前に売りに出す。値下がりや中古品売買手数料を含めて10万円以上かかったとしても、10万円のバッグを買うより満足度は高いのだろうか?重くても平気、いつも車で移動するから。使い勝手が悪くても問題なし。バッグの中にそれほどモノを入れる必要もないから。ということだろうか?

 

これも個人のライフスタイル次第だ。自分に合った、自分の日常の満足度が高いモノを手に入れればよい。バッグであれ不動産であれ。

 

駅から遠くて、管理の悪い物件はもちろん避けるべきだろう。だからと言って、誰もが港、中央、千代田区に住んで高い満足度が得られるわけではないのだ。  (了)