パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

サッカー香川選手の活躍に思う(2012.06.07作成)

香川選手がドイツの有力チームから英国の有力チームに移籍する。ドイツのサッカーチームで活躍する日本人選手のニュースに接する度、ある会合でドイツ人女性外交官がはなった言葉を思い出す。

 

アジア人はサッカーには向いていない。自分ひとりで(個人で)自主的な判断ができないから、瞬時に動きを決めなければならないサッカーでは活躍できない。」

 

その会合は、スイス外務省が主導して中国の人権状況を改善するための方策について、西側友好国が情報交換することを目的としていた。午前の意見交換を終え、参加者が昼食のテーブルを囲んでいた時、サッカーの話題になり、上記の発言が出た。その席でアジア人は私一人。人権をうんぬんする外交官が「アジア人は」と一般化して、揶揄することは残念だ。思いあまって反論した。

 

「貴女の今の発言には同意しかねる。アジアでのサッカーの歴史は浅く、欧州と比べて選手層も圧倒的に薄い。日本について言えば、身体能力の優れたこどもはチームスポーツならサッカーではなく、まず野球を目指す。個々の状況の違いを勘案せず、一般的にアジア人があるスポーツで劣ると断定することは、人権について議論するこの会合の参加者の発言とは思えない。

 

丁度、野球の世界大会で日本がトップにたった直後であり、日本に行ったことのある英国の外交官が「この間の日本の野球は素晴らしかったよ」とフォローしてくれた。ドイツ人も自身の発言のまずさを恥じたのか、私の剣幕に気圧されたのか、ばつの悪そうな顔をしたので、テーブルを囲む者は意識的に別の話題を探し始めた。  

 

彼女は、香川選手のドイツでの活躍をどのように見ているのだろうか。どのスポーツでも、選手は練習ではコーチの指導や助言を仰いでも、本番になればたった一人で瞬時に判断をし、同時に身体が動かなければならないのではないかと思う。身体能力に恵まれず、命がけでスポーツをしたことがないので想像するしかないのだが。

 

女性がおぼれているのを助けるかどうか判断する時、ドイツ人はそれは規則かと聞き、日本人は本社の意向を確認してから、という例え話がある。日本人は個人プレーを嫌い、集団指導体制で意思決定が遅いという批判もある。あたっている面もあるのだろうが、日本も個人で活躍できる人材を輩出していることは確かだ。   (了)