パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

小島英俊著「外貨を稼いだ男たち」(2011.06.25作成)

「男たち」となっているのは、「外貨を稼いだ人々」より格好が良いと思った編集者の意向と想像します。司馬遼太郎さんの言うところの、輸出できるものは絹織物くらいしかなかった「まことに小さな国」が、開国以来、懸命に外貨を獲得しようとした歩みが感動的です。

 

1年ほど前の日経新聞の「領空侵犯」欄で、ある方が日本の「ソフト・パワー」を論じる時、すぐ政府はアニメをはじめとする大衆文化を外国に売り込もうという発想になるが、政府に期待するのは、アニメの著作権が海外で侵害されないよう国際ルールを整備することだと述べておられ、目からウロコの思いがしました。利益を上げてはいけないとされている公的部門が本来やるべきことと、民間部門が自発的にやることは別モノだけど、補完関係にあります。日本人や日本の法人が海外で不利益な扱いをうけないような制度設計を構築することに政府は尽力すべきで、今なら、風評被害を食い止めることに全力を尽くせということでしょう。

 

もうひとつ、政府、役人が比較的簡単にできることがあります。イスラエルNGO東日本大震災復興のために240万ドル(約2億円)提供したようです。受け取ったのは日本財団、JEN、石巻赤十字病院等の日本のNGOです。この支援金の日本国内でのとりまとめを行った友人のユダヤ系米国人から、日本の外務省から「支援に感謝する」趣旨の書簡を出してもらえないかと依頼されました。そういう書簡があると、今後のfund raisingがやりやすくなるからと言うのです。役人の手紙が欲しいなんて、あんまりNGOらしくないと思いながら、「イスラエルのNGOが被災地のために行ったことすべてを日本政府・外務省は把握できないので、支援に感謝するとまでは言えないが、イスラエルのNGOから支援を受けた日本のNGOが感謝していることを確認する書簡なら出せる」というラインに落ち着きました。

 

末端の役人が前例のないことを依頼され、戸惑っていることを察して、友人は私に泣きついてきたようなので、腹の据わったしかるべきレベルの同僚に話しをつなぐ労をとりました。たった1枚の簡単な手紙を受領して、友人は大喜び。これでもっと日本を助けようという気持ちになって、更に支援金を積み上げてくれれば、役人だって間接的に外貨を稼ぐことはできると思います。     (了)