パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

参院選の日、「あぶれオス」問題を考える(2019.07.21作成)

7月21日の参院選の日。午後8時の投票締め切り前のNHK番組は「ダーウインが来た」。相島(あいのしま)という猫の島が舞台だ。動物が生きる過酷な世界を描くこの番組は実に面白い。

 

ライオン、ピューマ、ヒョウ、トラそして猫とネコ科の動物の習性や掟は人間世界にあてはまるような話もある。群れや家族から疎外された「あぶれオス」の子殺しの恐ろしさが、今晩の番組でも取り上げられている。

 

直前のニュースでは、京都アニメ―ションに対する放火殺人容疑で41歳の男が逮捕されたことを伝えていた。少し前の、川崎市におけるカリタス学園のスクールバスを待つ子どもたちや保護者を刃物で襲った事件も51歳の男が容疑者だった。まさに人間世界の「あぶれオス」が起こした事件のように思える。

 

ライオンの群れに入れてもらえないオスの人生は過酷だ。子育ても獲物とりもメスが中心の群れに君臨するオスライオンは一頭のみ。体格は圧倒的にメスより大きく、時々咆哮し、はぐれオスが近づくと威嚇して追い払う。メスもはぐれオスはまるで相手にしない。あぶれオスは草原を一頭でさまようしかないのだ。

 

今日の番組では父親猫が、母子を他のオス猫から守る用心棒の役を果たすことも描かれている。幸せなオス猫なのだろう。野生の猫は、オスもメスも寿命は4-5年とか。戦いに明け暮れ傷だらけ。

 

ジャーナリストの佐々木俊尚さんが、「キモくて金のないオッサン」は弱者として認知されない悲哀があると述べている。ひと昔前は女性が意識的に自分の能力を低めに抑えていたので、あぶれオスにも結婚の機会があったが、今の統計では男性の5人に1人が生涯未婚であるという。京アニやカリタス学園の事件の容疑者はこのカテゴリーに入るのだろう。

 

第二次世界大戦後の日本を含めた比較的裕福な先進国では、人類史上最も平等が実現した例外的な時期であるとトマ・ピケティが「21世紀の資本主義」で述べている。戦前は力とお金のある男性が何人もの女性を自分のものにし、養ってもいた。戦後の束の間の、男性にとって幸福で文明的な時代が終わった今、政治はこのあぶれオスとどのように取り組むか真剣に考えなければならない。野生の王国のように、あぶれオスをただ排除すればよいのではない。彼らも居場所を得、生まれてきて良かったと思えるようになれないと、人間は野生動物と同じレベルに過ぎなくなってしまう。

 

選挙結果は与党躍進、が、改憲のための3分の2には届かないとの予想。  (了)