パブリック・ディプロマシー日本外交に望むこと

34年間の外交官生活を振り返って

次の米国大統領はバイデンさん(2020.11.09作成)

トランプさんが黙ってはいないのだろうが、どうやらバイデンさんが勝ったようだ。

 

祝辞はツイッター

隣国のカナダのトルドー首相の祝辞が、11月7日深夜いち早く流れはじめた。手段はツイッター。カナダ政府の公式声明ではない。その後、トランプさんと激しく対峙する写真が有名になったドイツのメルケル首相やトランプさんを苦々しく思っていた先進国の首脳が次々と祝意を表明する。いずれもツイッター

 

トランプさんとよく似たところもある英国のジョンソン首相の祝辞がツイッターで流れ始めるに至って、「ああ、バイデンさんの勝利は確実なんだ、菅さんはいつ祝意を表明するのかな?」と思った。

(*時系列的には、メルケルさんの祝辞は比較的遅く、ジョンソンさんより遅かったと伝える報道もある。)

 

松井大阪市長のサムライぶりが際立つ

米国の慣例では、相手が敗北宣言をし、勝者を称える演説をして大統領選は終わる、と識者は述べている。トランプさんは慣例破りだから、往生際悪く、法廷闘争も含めぼやきまくるのだろう。1週間前の松井大阪市長の潔さが改めて思い出される。ビジュアル的にはそう思えないが、松井さんはサムライなのだ。

 

トランプ、ジョンソン、麻生太郎各氏の共通項

個人的にはトランプさんのあの鬱陶しい顔を見たり、相手を罵倒する声を聞かされたりすることがほぼなくなるのは気持ちがいい。英国のジョンソン首相同様の汚らしい金髪、肥満体型は見苦しい。テレビの画面で見て同じように感じる日本の政治家は麻生さんだ。

 

麻生さんは肥満ではないが、「セクハラという犯罪はない」をはじめ数々の相手を侮蔑した「それをいっちゃあ、お終いよ」発言はトランプさんと相通じるものがある。日本にも「隠れアソウ」が沢山いるのだろう。

 

トランプチルドレンの女性たち

実の娘のイヴァンカが大統領になることを願っていると、トランプさんは明言している。自分の妻は若くて、モデルで整形美人で、自分より明らかに能力が劣る方がいいのだろうが、優秀な娘には政治的キャリアを積んで欲しいのだろう。一緒にコロナに感染した広報責任者の女性は若くてきれいな人だった。最側近の一人と言われていたが、能力はあるのだろう。

 

が不思議なのはイヴァンカさんを含め皆、判で押したように金髪のロングヘア―。ノースリーブのワンピースにピンヒール。これで仕事をするのは辛いだろうなあ。トランプ的な女性観を抱く米国男性の女性のルックスの好みは、かくもステレオタイプなのか?と舌を巻いた。

 

バイデンさんが副大統領に選んだカマラ・ハリス氏のようなタイプはトランプさんの回りにはいなかった。若干トランプ的なところのある(アメリカファーストで多国間外交軽視)ブッシュ・ジュニア大統領でも、コンドリーザ・ライスという強面黒人女性補佐官を重用していた。

 

ホント、トランプさんの女性観はわかりやすかった。無能では困るが、まず見てくれ重視。身内は特別扱いで、娘とその婿殿を要職につける。

 

「名言はみんなの当たり前をみつけること」

この1-2か月、テレビでは専門家と称する人たちが連日、トランプか?バイデンか?とコメントを述べていた。

 

コロナについて岡田晴恵さんがあちこちの番組でコメントしていたのを「コロナバブル」と呼ぶ人がいた。言うことはいつも同じ。医療崩壊の恐れ、発熱外来の必要性。

その後、安倍首相の辞任、菅総理誕生でスシローこと政治評論家田崎史郎氏が連日テレビに引っ張りだこ。こちらも立ち位置は決まっている。安倍さん大好き、石破さんは裏切り者、安倍政権を継承すると明言した菅さんは安定感。

 

JRA日本中央競馬会のCMは、柳楽優弥松坂桃李中川大志という若手売れっ子俳優に、同じく若手人気女優の高畑充希や土屋太鳳を散りばめた豪華版だ。誰も大御所じゃないので、意外にギャラは安いのかも知れない。柳楽優弥がレース前にパドックを回っている馬たちについて「この中のどれかが勝つんだよね」と当たり前のことを言い、そのことを揶揄されて「名言はみんなの当たり前をみつけること」と反論する。その通り!

 

米国大統領選の「専門家」たちは、皆当たり前のことを言っているだけ。「分断」「ラストベルト」「郵便投票」「隠れトランプ」等々を散りばめて。

 

少々毛色の違うことを言う人は専門家ではない。高齢の木村太郎さんは、もう失うものはないのと若干のボケのせいか「トランプ再選」断言。この人には「小室圭さんは頑張っているじゃないか。眞子さまと結婚させてあげれば」といういかにもご隠居的な発言がある。私も眞子さまのためにも木村太郎さんに同意するが。

米国政治には門外漢と自認する橋下徹氏も「めちゃくちゃだけれど、中国と対峙するにはトランプさんでないと」

 

専門家は素っ頓狂なことを言えないから「当たり前」のことしか言えなくなるのだろう。コメントを求めるメディア側も「当たり前」の答えを待っている。予定調和だ。

 

日本の民主選挙は世界に誇れるか?

小さな村や離島での村長選挙では、文字通り村が二分される事態もある、と聞いたことがある。民主的な選挙の経験が少ない途上国に日本も選挙監視団を送っているが、他国の未熟な民主主義と優越感に浸れない噂だ。村長派、反村長派がそれぞれ投票箱を持って逃げることもある、とまことしやかに言う人もいる。トランプさんのいう「票を盗む」(steal)事態だ。狭いムラで各人の利害(職、土地、名誉等々)が絡むので必死なのだろう。

 

アングロサクソンは日本の理想か?

かつて外務省にはスター文筆家がいた。「隣の国で考えたこと」で有名になった岡崎久彦氏だ。

日本はアングロサクソンについて行けば間違いない、とシンプルに主張していた。アングロサクソン英米主導の連合軍に完膚なきまでにたたきつぶされてから3-40年。敗戦した日独のようなファシズムの枢軸国に対し、自由な世界を掲げる英米の理想主義は輝かしく見えたのだろう。

 

その米国では、ファシズムい勝利した第二次大戦後、「赤狩り」のマッカーシー旋風が吹き荒れ、ローザ・パークス、マーチン・ルーサー=キング牧師のようなヒーロー、ヒロインによる公民権運動が繰り広げられた。1968年のメキシコオリンピックでは、表彰台に立った二人の黒人米国選手が国旗に目を向けず、黒い手袋のこぶしを突き上げていた。

英国はエリートと労働者との分断がはっきりしていて、同じ英語でも全く違うことを知った。

 

米国で白人がマイノリティになる日は近い

米国はマイノリティの地位を底上げし、移民を受け入れ、英国は旧植民地からの移民労働者だけでなく優秀な頭脳も受け入れてきた。特に米国は、白人がマイノリティになるかも知れない国となったのである。白人男性にとってみれば、移民や国内の有色人種だけでなく、女性も競争相手になった。負け犬となった白人男性が、トランプさんのコア支持層だと言われている。岡崎さんが賞賛していた理想主義の英米は、白人(男性)が特権階級として主流で多数派を占めるが故の、余裕のなせる寛容さであったのだ。

 

アファーマティブ・アクションポリティカル・コレクトネスを武器に紆余曲折を経て、非白人や女性の地位は高まってきた。2016年の選挙では、「黒人のオバマ大統領の8年の後、今度は女性の大統領かよ!?」という力がヒラリー候補への逆風、トランプさんへの追い風となった。データは非白人の出生率の方が白人のそれより高いことを示している。早晩白人は(男性も女性も)米国の主流ではなくなるのだ。

 

高齢のバイデン大統領に何かがあった時、黒人とインドの血を引くハリス副大統領が大統領になる。米国民はその心の準備ができているのだろうか?